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〈高まる危機〉溶岩の噴出量は前回想定時の約2倍、火砕流は約4倍に…「富士山噴火」が日本にもたらす“具体的な被害”とは

『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』より #1

2022/08/17
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 この地震前後に、山梨県の富士五湖を震源に、震度5弱の地震が発生した。震度5弱の観測は9年ぶりのことだ。

 気象庁はすぐさま会見で「富士山の火山活動とは直接的に関係ない」と否定した。しかし、火山の専門家は「富士山のマグマが噴出しやすい状態にもあり、いつ噴火してもおかしくない」とコメントした。

 確かに、1083~1511年まで400年以上も噴火の記録がなかったことを考えると、約300年間の平穏期はまだつづくのかもしれない。あるいは、火山専門家が警告するように、地下に大量のマグマを溜めつづけ、いつ噴火してもおかしくない状態に近づいているのかもしれない。

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「地震+噴火」という恐怖のシナリオ

 巨大地震による火山噴火の誘発、という恐怖のシナリオは、東北地方太平洋沖地震によって現実味を帯びてきた。その少し前、富士山は2000~01年にかけて、深部で低周波地震が活発化した。地下20~30キロ付近でマグマの蓄積が進み、地殻の破壊などによる高周波地震の発生回数が急増した。

 この異変のはじまりを受けて、2001年に政府と関係する県市町村が「富士山火山防災対策協議会及び富士山ハザードマップ検討委員会」を設置した。2004年に富士火山防災対策の基礎となるハザードマップが作成された。

 それが2021年に17年ぶりに改定された。最新のハザードマップでは、溶岩の想定噴出量は前回の約2倍の13億立方メートル、火砕流は約4倍の1000万立方メートルにかさ上げされた。そのほか、火口の現れる範囲を、山頂から半径4キロ以内の全域にするなど拡大した。

新ハザードマップによる溶岩流の到達範囲(出典:「静岡新聞」2021年3月30日)

 また溶岩流や火砕流が流下する地形のデータも、前回より詳細になった。溶岩流が到達する可能性のある地域は、以前のハザードマップでは山梨、静岡両県の15市町村だったが、神奈川県を加えた3県27市町村に増えた。富士吉田ICから須走ICへいたる自動車専用道路の「東富士五湖道路」に最短6分で到達すると推定され、主要道路が寸断される懸念もある。

 到達時間は最短で、静岡県は沼津市が18時間、山梨県は大月市が1.5日間、上野原市が6日間。神奈川県は今までは到達しないはずだったが、 相模原市緑区が10日間、小田原市が17日間で溶岩流が到達する。