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成功した噴火予知

 火山の噴火予知は科学的にはまだ困難だ、火山は山ごとに噴火の性質が違うので予知はむずかしいと専門家はいう。これまで、噴火のほとんどは予知できないまま不意打ちをくらった。だが、何回か噴火し常時監視している火山のなかには、噴火の時期をある程度予測できた例もある。それでも、避難に結びつく「時期」「場所」「規模」の予知は例外的にしか成功していない。

 フィリピンのマヨン山噴火はその数少ない成功例だ。ルソン島南部のレガスピ市の近郊にそびえる富士山のような美しい成層火山だ。人気観光地でもある。フィリピンでもっとも活発な活火山として知られ、17世紀以降50回も噴火している。このために、火山の性格がわかっていたことが理由だ。火山の周辺には現在、約90万人が住み、大規模な噴火を起こしたら深刻な被害は避けられない。1814年に噴火し、溶岩流が山麓の街に流れ込んで約1200人が死亡した。

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 1984年の噴火では、最初の小規模な噴火で住民が避難し、数週間後に大噴火が起きたが犠牲者は出なかった。避難していた住民たちが帰宅を望んだが、監視していたフィリピン火山地震研究所と米国地質調査所の火山学者が噴火はつづく可能性があるとして避難解除を認めず、結果的に犠牲者は出なかった。

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 しかしながら、93年の噴火では、突発的な噴火で火砕流と溶岩流が噴出し、逃げ遅れた約70人が犠牲になった。2000年にはふたたび活発な活動がはじまったが、フィリピン火山地震研究所の事前の警告で約7万人の住民が避難した。その1ヵ月後に最大噴火を起こしたが、直接的な被害は出なかった。

 しかし、06年の噴火では、11月の台風上陸と重なって渓流でラハール(火山泥流)が発生し、死者620人、行方不明710人という大きな被害になった。13年に起きた噴火では、マヨン山に登っていた観光客5人(観光客4人、ガイド1人)が落ちてきた噴石に当たり、死亡した。18年にも噴火したが、事前の警報で住民が避難して犠牲者は出なかった。

 インドネシアで1983年のチョロ山(ウナウナ島)と88年のイベシ山(マキアン島)で起きた両噴火の例も貴重だ。チョロ山では地震計がまったくなかったが、専門家の適切な助言で避難ができ、イベシ山では地震計が1台だけの状況だったが、火砕流の発生前に全住民が避難することができた。もしも、避難が遅れていたら、両噴火とも20世紀最悪の火山災害に発展していたといわれている。