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“オタク以外の人”が二次創作の魅力に気づいた

――インターネット発のキャラクターとしては、他に類を見ないほどの人気と知名度を獲得しました。なぜここまで広がりを見せたのでしょう。

田村 一番はやっぱり“二次創作”じゃないでしょうか。初音ミクから派生するコンテンツってものすごく多いんですよ。ボカロPたちが作る曲もそうだし、その曲にも“歌ってみた”や“踊ってみた”があって、絵師(イラストレーター)による“描いてみた”もある。これって、オタクカルチャーに根付いている二次創作の文化と同じだと思うんです。

――海外だとコスプレをする方も多いですね。

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田村 クリエイターごとに違った色んな“初音ミク”が発表されることで、目に留まりやすくもなりますし、それぞれの好みにあった初音ミクのコンテンツが見つかるわけです。そこにインターネットの成長が合わさって、世界中に受け入れられていったということだと思います。

海外でコスプレされることも多い ©共同通信

 二次創作ができないミッキーとかキティちゃんも世界中で人気ですけど、こういう流行らせ方もあるんだっていう稀有なモデルですよね。二次創作の面白さに、“オタク以外の人”が初音ミクで気が付いたんですよね。

ハチの登場により、音楽シーンの流れが変わった

――確かにそれまで音楽の世界は“パリピ”的な人が幅を利かせていたような……。

田村 ほんと、そうでしたよね。僕はもともと中学生の頃から中古のパソコンを自分で組み立てて、そこに「Cubase」というソフトを入れて曲を作っていたので、いわゆる“オタク気質”はあったと思います。でも音楽の中心はクラブだったので、次第に週末は朝までDJをしたりするようになりました。DJが終わった後は機材を買うために牛乳配達をしたりして、だんだん学校へも行かなくなってしまったり……。

©文藝春秋 撮影=平松市聖

――牛乳配達! 懐かしいワードですね。

田村 結構稼げたんですよ(笑)。3時間働いて1万8000円ぐらいでしょうか。そうこうしているなかで、DTMでトランスっていうジャンルのダンスミュージックを作り始めて、それと並行してミュージックシーンのど真ん中だったJ-POPの仕事も始めました。デビューしたてのEXILEさんや倖田來未さんのレコーディングのエンジニアのアシスタントをしたりとか。

――そう考えるとこの15年間で、音楽シーンは様変わりしました。ボーカロイドシーンで特にエポックメイキングな出来事というと、なんでしょうか。

田村 やっぱりハチ(米津玄師のボカロP名義)の登場ではないでしょうか。2010年8月に発表した「マトリョシカ」が代表的ですが、彼がカオスでダークな世界観の曲を出したところから流れが変わってきた。