ボカロP出身の人気アーティストが激増
――最近のボカロ界でのヒット曲も、そういうエッジの効いた曲の延長線上にある感じがします。
田村 初音ミクが登場してからの3年間で、ロックや恋愛ソングのようなもともと人気のあるジャンルの曲は一通り出ちゃったんですよね。だからこそ歌詞にもメロディーにもパンチのある「マトリョシカ」が発表されたときは強烈でした。
日本の音楽シーンが変わるなという予感がありました。
――米津玄師さんやYOASOBIのAyaseさんを始め、最近ではJ-POPの市場にもボカロP出身のアーティストが増えてきています。
田村 初期のボカロPは、文字通りの音楽プロデューサーが多かったと思います。僕も最初にボーカロイドを触ったときは仮歌のソフトとして使えるんじゃないかと思いましたし、livetuneのkzくんはよく「僕は初音ミクをシンセサイザー、ひとつの音色だと思って使ってるんです」っていう言い方をしています。ryoくんもそうで、彼はあくまで初音ミクを一人のアーティストとして見ているから、曲の前に<初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれたよ>という言葉がついている。
でも、ハチが“米津玄師”として歌うようになり、wowakaくんがヒトリエのギターボーカルとしてデビューした頃から、自分で歌いたいという子が増えました。自分が表舞台に立つ手前のステップとしてボカロPになる。そういうミュージシャン気質の子も増えてきたんです。
今のティーンにとってのボカロは、身近な存在として根付いている
――ボーカロイドはいまや主流も主流ですよね。
田村 特にYOASOBIが出てきたときに決定的になりましたよね。ボカロ曲がより大衆化して、今までの音楽と融合しはじめた。同時にボカロPの立ち位置も上がって、去年は「中学生の将来なりたい職業」で、YouTuberやeスポーツプレイヤーと並んでボカロPがランクインしましたし。
うちの会社にHoneyWorksっていう恋愛ソングでヒットを連発しているグループがいて、彼らが作った楽曲をKADOKAWAさんが小説化してくれたんですね。その小説は今もう累計400万部ぐらい売れていて、小中学校の図書室においてあったりする。だから今のティーンにとってのボカロは、30代、40代の大人が思っているよりもずっと身近な存在として根付いていると思います。