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1、怠け者が増える

 どうも南国の人たちは、のんびり屋だとか怠け者だとか、色眼鏡で見られることが少なくない。童謡「南の島のハメハメハ大王」はその最たるもので、ハワイのカメハメハ大王の友人と設定されているハメハメハ大王は、その歌詞の中でこう歌われている。ロマンチックな王様で、日没前に寝てしまう優しい奥さんを持ち、子供は学校嫌いで、風が吹いたら遅刻して、雨が降ったらお休みする。

 本当に南国の住民は、こんな感じなのだろうか。

 米プリンストン大学のマリー・コノリー氏が、天気で労働時間がどう変わるかを調べてみたら、晴れの日は雨の日よりも30分ほど仕事時間が短かったことが判明した(※3)。おそらく、晴れの日は心が躍り、仕事どころではないからだろう。さらにハーバード大学などが、世界有数の真面目さを誇る日本の銀行員の仕事ぶりを徹底調査した時も、雨天の方が仕事の生産性が上がっていたという結果が出た(※4)。

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 では気温との関係はどうだろう。ヘルシンキ工科大学の研究によると、気温が22℃を超えると労働の効率が急に下がった(※5)というし、エール大学のエルズワース・ハンチントン教授によれば、数学や英語などの知力のスコアは、室温が5℃の時に最高となって、暖房を強めると下がる。21℃になるとどんなに努力しても、さっぱり頭に入らなくなるという(※6)。

 つまるところ冷蔵庫並みの寒さの時に頭がよく回転するようだから、南国で真面目に働いたり、勉学に励んだりする人の苦労は計り知れない。だから温暖化も労働の生産性を落とすだろうと考えられている。人間も万物の霊長と威張ってみても、所詮(しょせん)は生物のはしくれに過ぎないから、どうあがいても気候環境に左右されてしまう運命にあるということだろう。

 こんな風に、暑いと怠け者になるそうだが、国連の国際労働機関(ILO)が2019年に将来への不安を感じさせる試算を発表した(※7)。なんでも今世紀末までに世界気温が1.5℃上昇するシナリオの場合、2030年の時点で世界のすべての労働時間の2.2%が失われ、それは8000万人分のフルタイムの労働に相当するという。額にすると2.4兆ドルだが、これでも控えめな計算なのだそうだ。ちなみに日本では、暑さで約13万人分の雇用に相当する労働時間が減るだろうと計算されている。

 こうした影響はまんべんなく一様に出るのではなく、産業や地域ごとに格差が広がっていく。もっとも犠牲を払うだろうといわれる業種が、外で働く農業と建設業で、失われる全労働時間のそれぞれ6割、2割を占める。地域別でみると、南アジアや西アフリカなど、すでに暑い地域がもっとも影響を受けるだろうという。こうした地域は、概して所得水準が低く人口が増えていく傾向にあるから、貧困が益々深刻化していくかもしれない。悲しいかな、温暖化は格差をより広げていく危険もはらんでいる。