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「暑すぎてカップルが夜の生活を控え、人口減少の可能性も…」地球温暖化が人類にもたらす“5つの意外なリスク”とは

『お天気ハンター、異常気象を追う』より #2

2022/09/04

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル

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2、怒りっぽくなる

 このところ「アンガー・マネージメント」という言葉が盛んに言われるようになった。怒りに任せて、ちゃぶ台をひっくり返す時代は終わったから、感情を自分でコントロールして、怒りを抑える努力をしないといけない。

 とはいえ、どうするのか。意外なのだが、怒りのピークが続くのは、たった6秒なのだそうだ。だからこの6秒間をなんとかやり過ごすことがコツらしいが、これからはこの“瞬間の辛抱”が、ますます試される時代になっていく。というのも、温暖化は人を怒りっぽくさせてしまうからである。

 気温と攻撃性について、プロ野球選手を観察した研究がある。野球は運動の中でもとりわけ平和的なスポーツだが、デッドボールがきっかけで乱闘騒ぎになることがある。ボールを当てられカチンときたバッターが、ピッチャーの胸ぐらをつかみ、パンチをくらわすのを見ると、何となく投手が気の毒に見えてくる。しかし、そのデッドボールは故意なのか過失なのかによって見え方は変わるだろう。

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森さやか氏 ©文藝春秋

 米デューク大学のリチャード・ラリック氏が、メジャーリーグの約6万試合分のデータをかき集め、チームメイトが死球を受けた試合ではピッチャーがどのくらい相手チームの打者にデッドボールを投げ返すかを、気温との関係で調べてみた(※8)。気の遠くなるような調べものである。

 すると気温が10℃台前半のときは、全体の22%にあたるデッドボールはチームメイトがボールを当てられた後に起こっていた。つまり復讐が原因だったのに対し、気温が35℃のときには、27%に跳ね上がっていた。

 つまり真夏日以上の暑さではピッチャーは攻撃的になって、仲間へのデッドボールに憤慨して報復に走るのであろう。そうなってくると、乱闘騒ぎになって一番可哀そうなのは、胸ぐらをつかまれた投手ではなく、罪もないのにボールを当てられ痛い思いをしたバッターということになるかもしれない。

 そもそも人は暑いとキレやすくなることが証明されている。蒸し暑さで有名なミシシッピ州の、冷房のない更生施設を6年間にわたって観察し続けた研究(※9)では、気温が26.7℃を超えると暴力の件数が急激に増加していた。

  さらに全米経済研究所が行ったロサンゼルスの調査(※10)では、最高気温が29.4℃以上の時はそれより涼しいときと比べて、犯罪全般が2.2%、暴力犯罪に至っては5.7%も多くなっていたそうである。そして特に所得の低い人たちが住むエリアで顕著な変化が見られたという。

 余談だが、古代ローマ皇帝のアウグストゥスは教師から、「怒りを感じたら、行動する前にアルファベットを唱えなさい」とアドバイスされたそうである。この高名な教師がアテノドルス・カナニテス、アンガー・マネージメントの祖の1人である。

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