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5、春生まれが減る

 これからの春はくしゃみ、鼻水のにぎわう季節になるようだが、産院はやや静かになるようだ。

 2015年、全米経済研究所が発表した調査報告書(※14)では、春生まれの赤ん坊が減っていることが明らかになった。

 1931年からの80年間に生まれた赤ん坊の出生記録と、その子供が生まれるトツキトオカ前の気温を照らし合わせたところ、最高気温が27 ℃以上の日が1日増えるごとに、15~21℃の時と比べて、9か月後の出生率が0.4%ずつ減っていることが分かった。小さな変化に聞こえるかもしれないが、アメリカの全人口に照らせば毎月およそ1200人も減る計算になるという。

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 原因は、夏の天候変化によって、コウノトリが母体に子供を連れてくるのが難しくなっていることにある。まず極端な高温となることで、精子や卵子の質、男女双方のホルモン量に悪影響を与える。さらに、農作物が不作となって、食糧価格が高騰し、家計が苦しくなって母親が栄養不足となる。そのうえ収入が減ってストレスが増え、カップルが夜の営みを控えるなどの様々な問題を引き起こす。

 しかし反対に、夏の出生率は上がる傾向があるそうである。春生まれの子供(夏に受精)が減って、夏生まれ(秋に受精)が増えていた。極端に暑い時期が終わると、生理的にも心理的にも落ち着いて、営みが増えるということなのだろうか。とはいえ、春生まれが減った分を補えるほど、夏に子供が生まれるわけではないというので、暑さが原因で人口が減少する可能性もあるという。

 いっそのこと、夏場に大停電でも起きたなら事態は好転するのだろうか。

※3 「Here Comes the Rain Again: Weather and the Intertemporal Substitution of Leisure」Journal of Labor Economics, Jan 2008, Marie Connolly

※4 「Here comes the rain again: Weather and the intertemporal substitution of leisure」Harvard Business School Working Paper,Jul 2022, Lee, Jooa Juliaほか

※5 「Room Temperature and Productivity in Office Work」O. Seppänenほか

※6 『天気予報の裏を読む──思わず人に話したくなる56のストーリー』幣洋明著(ダイヤモンド社)より

※7 「ILO新刊─熱ストレスの増加によって予想される生産性低下は8000万人分の仕事の喪失に相当」ILOのHPより(2019年7月1日)

※8 「Temper, temperature, and temptation: Heat-related retaliation in Baseball」Psychological Science, Apr 2011, Richard P. Larrickほか

※9 「The causal effect of heat on violence: Social implications of unmitigated heat among the incarcerated」NBER, Jul 2021, Antia Mukherjeeほか

※10 「The Urban Crime and Heat Gradient in High and Low Poverty Areas」NBER, Jun 2019, Kilian Heilmannほか

※11 「Nighttime temperature and human sleep loss in a changing climate」Science Advances, 26 May 2017, Nick Obradovichほか

※12 「Projected climate-driven changes in pollen emission season length and magnitude over the continental United States」Nature Communications, 15 Mar 2022, Yingxiao Zhangほか

※13 「Pollinosis and all-cause mortality among middle-aged and elderly Japanese: a population-based cohort study」Clinical & Experimental Allergy, Aug 2016,小西祥子ほか

※14 「Maybe next month? temperature shocks, climate change, and dynamic adjustments in birth rates」NBER, Oct 2015 Alan Barrecaほか

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