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「暑すぎてカップルが夜の生活を控え、人口減少の可能性も…」地球温暖化が人類にもたらす“5つの意外なリスク”とは

『お天気ハンター、異常気象を追う』より #2

2022/09/04

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル

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3、悪夢にうなされる

 寝不足が続くと、キレやすくなるというが、日本人の睡眠時間は、世界でも指折りの短さである。中国のゼップヘルスコーポレーションという会社が行った調査によると、2021年の日本人の平均睡眠時間は6時間44分と、インドネシアに次ぐ世界2位の短さだったそうだ。逆にもっともよく眠るベルギーの国民と比較すると、睡眠時間は1時間近くも少ないという。睡眠不足は頭の回転も遅くなるうえ、機嫌が悪くなるし、悪夢も見るし、頭痛や吐き気をもよおすこともあって、心にも体にもいいことはない。

 それなのに、温暖化が睡眠時間をさらに短くさせてしまうかもしれないという論文が発表された。2015年、米サンディエゴが熱波に見舞われたとき、エアコンの効かない寝室で眠れぬ夜を過ごしていた学生のニック・オブラドビッチ氏はふと閃(ひらめ)いた。「温暖化は人をどれほど寝不足にさせるのだろう」。

 彼はそれから、夜間の気温とアメリカ疾病予防管理センターが集めた10年にわたる77万人分の睡眠データとを照らし合わせ分析を行った(※11)。すると、夜の気温が1℃上がると、睡眠不足の日が100人当たり1か月に3日増加していたことが分かった。とくに高齢者や、エアコンを持てない年収5万ドル以下の貧困層で影響が大きかったという。

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 そうして、このまま気温が上がっていくと、2050年には眠れぬ夜がさらにひと月に6夜、2099年には14夜も増えてしまうという予想に行きついた。

 そうなるとアメリカ人全体では、数億夜も睡眠が短くなる。近頃の日本では「熱帯夜」という言葉では事足りず、「スーパー熱帯夜」なる言葉も飛び出しているが、目の下にクマを作り、世界一不機嫌な国民とならないためにも、日頃からたくさん眠るよう心がけようではないか。

写真はイメージです ©iStock.com

4、花粉症がつらくなる

 日本人の、実に42.5%が花粉症だというデータがある。これは毎日2~3杯コーヒーを飲む日本人の割合とほぼ同じで、全国でもっとも患者数の多いアレルギー疾患である。国民のおよそ半数が、開きっぱなしの蛇口のごとく垂れ続ける鼻水や目玉ごと洗いたいと思わせるほどの執拗な痒(かゆ)みに襲われる。

 電機メーカーのパナソニックがそんな花粉症患者の悲痛な声を集計し、そろばんをはじいたら、花粉症による社会人の労働力低下がもたらす国内の経済的損失は1日当たり約2200億円となったそうである。花粉症シーズンを60日とすると、年間の損失額は13兆円、GDPのおよそ2%に相当するというから、花粉はたちが悪い。

 しかし日本人だけが花粉症に悩んでいるかというと、そうではない。先進国では国民の2割が花粉症を持つという調査もあるし、イギリスに至っては国民の半数近くが花粉症という報告もある。人に攻撃を加えてくる草花は地域ごとに千差万別で、たとえばマンゴーの花粉でくしゃみをする人もいれば、オリーブやメープルの花粉で目をこすり出す人もいる。

 そんな花粉症患者が温暖化によって、ますます苦境に立たされるそうである。2022年の研究(※12)では、今世紀末までにアメリカでは花粉シーズンが40日早く始まるようになるうえに、最大で15日遅くまで続き、花粉の飛散量も倍になるかもしれないという悲惨な結果に行き着いた。すでにそのシナリオ通りの展開が始まっており、過去30年の間で花粉シーズンが20日も延び、量も2割増えていたことも分かっている。

 ただ朗報もある。東京大学の研究チームは、花粉症患者はがんによる死亡率が半減することを突き止めた(※13)。捨てる神あれば、拾う神もある。

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