「1発目の発砲から約2.7秒後」となる午前11時31分8秒頃、さらに「約5.3メートル」の位置まで接近していた山上容疑者は2発目を発砲。1発目の被弾を免れた安倍氏だったが、振り向きざまに放たれたこの銃撃で被弾し、その場に倒れ込んだ。
発砲音が銃器によるものと認識できていれば…
なぜ、銃撃を防ぐことはできなかったのか。
報告書は、「阻止することができなかった要因」について、「2発目の発砲から安倍元総理の被弾まで」と、「1発目の発砲から2発目の発砲まで」のそれぞれの状況に分けて分析している。
前者は、山上容疑者が約5.3メートルの至近距離から安倍氏を狙い撃ちしたことについては「本件結果を阻止することは物理的に不可能」だったとした。むしろ、警護員らの動きを「本件結果を阻止することができた可能性はなかったとはいえない」と問題視したのは、1発目から2発目の発砲までの「2.7秒」の空白についてだ。
報告書では「(安倍氏を)演台から降ろし、又は伏せさせるといった、危険から回避させるための措置」が執られなかった点や、「2発目の発砲までの間に、的確に防護板を掲げて射線に入り、又は警護対象者の退避等の防護措置」を実施しなかった点を批判した。
その場にいた誰もが、発砲という事態を想定していなかったことにも触れた上で、「発砲音が銃器によるものと即座に認識できていれば、身辺警護員等が声を上げて被疑者に警告するなどして、本件結果を阻止することができた可能性がなかったとはいえない」と指摘。後方への備えをおろそかにしたことで、山上容疑者の接近を許した点も「発生を阻止するには、1発目の発砲前の段階において、身辺警護員等において、被疑者の接近に気付いている必要があった」と問題視している。
ドローン、AI技術、防弾シェルター…「警護要則の抜本的見直し」
そして、「後方警戒の空白」が、警察組織のトップである警察庁長官の辞任にまでつながった失態の「主因であると認められる」と結論づけた。
報告書では、一連の事態を受けて警察庁が「警護要則の抜本的見直し」に着手する方針を明記している。
インターネットを通じて銃器や爆発物製造に関する情報に触れやすくなった点などを上げ、「情報の収集及び分析」を進める方針を示したほか、要人警護に際して「警察庁の関与の強化」を進めるとした。さらに、警護の場面での「ドローン」や「AI技術」の活用や、「防弾壁」や「防弾シェルター」などの銃器対策の強化方針も打ち出している。
警察組織のトップに警備体制の見直しを強いた衝撃的な事件。奈良の地で鳴り響いた2発の銃声は、警察組織の変革を促す号砲にもなりそうだ。