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《安倍元首相の生死を分けた空白の2.7秒》「警視庁報告書」に記された“山上容疑者への警戒が不十分”だったワケ 「危険を考慮せず、立ち位置を変更し…」

《安倍元首相の生死を分けた空白の2.7秒》「警視庁報告書」に記された“山上容疑者への警戒が不十分”だったワケ 「危険を考慮せず、立ち位置を変更し…」

2022/09/02

genre : ニュース, 社会

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報告書に記された「緊迫の経過報告」は“秒刻み”

 報告書は、「被疑者の到着」と題した項目でこう記している。

「グレー色半袖ポロシャツに作業ズボンを着用し、ショルダーバッグを携行した被疑者は、鉄道を利用して大和西大寺駅に到着し、本件遊説場所付近の商業施設に立ち寄った後、本件遊説場所の周辺を歩くなどしていた」

 現場に先着していた警護任務にあたる警察官は、午前11時16分頃まで現場周辺を「巡回」していたが、殺意を秘めた“狙撃犯”の存在を察知することはできなかった。

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 午前11時10分頃、街頭演説会が始まった。その時点で現場に集まった聴衆は「合計約200名」だったという。

事件現場 ©文藝春秋

 しばらくすると、安倍元首相を乗せた車両が現場に到着。ここから、憲政史上最長の長期政権を築いた安倍氏の命を奪う銃弾が放たれるまで、報告書での経過報告は秒刻みの詳細なものになっていく。

 午前11時17分8秒頃、「本部警備課長」は、安倍氏の降車時の警戒に備え、「バス・タクシーロータリー内の一番北側のバス停車枠の北東部の歩道角」に移動した。

 この時、「本部警備課長」は、山上容疑者と「1~2メートル」の距離まで接近していたが、そこでも山上容疑者に「着目することはなかった」といい、惨事を防ぐことはできなかった。

警戒方向を変更が運命の分かれ目に

 その直後の午前11時17分43秒頃に安倍元首相が現場に到着。奈良県警の「身辺警護員」3人と、「警視庁警護員」1人が車から降りた安倍元首相を誘導し、同11時18分14秒頃には「ガードレールの内側」にあった遊説場所まで移動している。

 その頃、山上容疑者は「バス・タクシーロータリー内の一番北側のバス停車枠の北東部の歩道角」で標的を待ち構えていた。

事件現場 ©文藝春秋

 報告書には、「午前11時18分52秒頃には拍手をするなどしながら、本件遊説場所方向を見て佇立していた」と記されている。視線を安倍氏に向けて拍手するこの時の山上容疑者の様子は、現場で撮影されたテレビの映像や、SNSで拡散された動画にも残されている。

 その後も、安倍元首相の動きに合わせて「身辺警護員」は周囲の警戒を怠ることはなかったが、「北東側及び東側歩道上」に聴衆が集中したことから、警備の視線もこの方向に集中する。

 午前11時26分頃、ガードレール外で後方を警戒していた警護員が、別の警護員の指示でガードレール内に入り警戒方向を変更。後方の警戒に「空白」が生まれた。その結果、「遊説場所の南方向」つまり、安倍氏の後方への警戒は「不十分」なものとなっていたことが、運命の分かれ目だった。