文春オンライン

2022/09/18

プロも妻に任せるのに……

 迷いが顔に出たのだろう。石田さんが、ご家庭のことを語り始めた。

「うちには高校3年生と中学3年生のふたりの息子がいます。『勉強、教えて』と言われたら応じますが、そうでなければ何もしません。押しつけになるから。勉強も含め、子どもの教育は妻に任せています」

「時に妻に情報提供はします。オプションを一つから二つにしたほうがいい場合もあるので。それ以外は、子どもとの雑談を楽しんでいます」

 石田さんは、教育関係の書籍を多数執筆し、ママの子育ての悩みに日夜答えている。教育分野では、プロ中のプロだ。お茶の子さいさいで子どもの勉強を教えられるし、奥様の何倍もの教育情報を持っている。それでも、「自分の子どもに接している時間は妻のほうが長い。子どものことをよく知っているのは彼女」と、妻を立てている。その態度は、実に潔い。

 かたや僕はどうか。自分が惚れて、口説いた妻をどれほど信頼できているのか。些細な受験体験や薄っぺらいプライドから、教育に固執しているだけではないか。

 富岡家でも子どもと接している時間は、圧倒的に妻が長い。妻は平日は朝2時間、帰宅後4時間、休日はべったり半日は子どもと過ごす。計算してみると、週54時間になる。かたや僕は、保育園のお迎えや習い事の送り迎えを含めても平日は1、2時間ほどで、休日もさほど変わりない。妻の5分の1ほどだ。穴埋めとして、子どもを連れて実家に泊りがけで遊びに行くこともある。ただし、それも頻繁とは言えない。

そもそも妻とは競い合う関係でもない

 取材開始からほどない頃、石田さんは「子どもに接している時間は圧倒的にママが長い」と話した。我が家も、その通りだ。

 接している時間に比例するかのように、子どもたちは妻を慕う。小学生になった長男、長女も含め、子どもたちはいまだに全員が「ママ、ママ」と彼女を取り合っている。その絆の強さから、子どもたちの個性、長所を感覚的に把握しているに違いない。

 石田さんご自身のこの話を聞いてまで、「それでも僕が主導権を握ります」とは、とても言えなかった。そもそも妻とは競い合う関係でもないのに、主導権と考えること自体、発想が間違えていよう。

 ほどなく、約束した取材時間を超えた。お礼を言って別れ、取材場所としていた喫茶店が入ったビルの外に出る。爽やかな快晴で、通り抜ける風が心地よかった。歩き始めると、僕は一つの決断を下した。

「教育のこと、妻に任せてみるか」

 大喧嘩するほどこだわっていたが、不思議と寂しさを感じなかった。むしろ、いくばくかの肩の荷を下ろし、足取りが軽くなった。

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