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家族も最初は「獲物が大量に獲れているのだろう」ぐらいに考えていたが時間が経つにつれ、雪崩に遭ったろうか、吹雪に叩かれているかもしれないと不安に駆られ、ついには捜索隊を出した。そして古来から続く猟場で、捜索隊は「発見」したのである。
〈猟夫の一人は隻袖を脱ぎしまま仮小屋の爐中に俯死 一人は小屋より一町ほども隔たると覚しき處に仰向けに斃れ 他の参名は其れより叉二三十間を隔てて同じく仰死し居たるにぞ〉
仮小屋の中では1人の猟師が隻袖(かたそで)を脱いだまま火床に突っ伏して死んでいた。もう1人は小屋から1町(約109m)ほど離れたところに仰向けで死んでおり、他の3名はさらに2,30間(約36m~約54m)ほど離れて、やはり仰向けで死んでいた。
巡査がやってきて検視した死体の状況は異様なものだった。
〈死骸は何れも手の周りの色の變り居たるのみにて他に些かの傷もなく〉
外傷などは一切なかったが、ただ全員手の色だけが変色していたというのである。小屋には米が1斗(約15キロ)と粥の残りがあり、餓死したわけでもない。いかにも不審な死に方ではあったが〈詮議の便宜もなければ死骸は夫々遺族の者へ引き渡される由〉、つまり死因を調べる方法もないので、遺体はそのまま遺族に引き取られた、というところで記事は終わっている。
実は私はこの話を秋田の古老から聞いて大略知っていた。この記事の内容に加えて、私が現地で調査してわかったことを補足すると、次のようになる。
- 最初に雪面から裸の右手が捜索隊を招き寄せるように突き出ていて、捜索隊は息をのんだ。というのも、その手は紫色に変じていたからである。その若者に苦悶の表情はなかったが、上半身裸であったことがみなの表情を凍りつかせた。
- 隻袖(かたそで)を脱いだまま火床に突っ伏して死んでいたのは狩りを仕切っていた中年男性
- 仮小屋で見つかった男以外は皆、上半身裸の状態だった。
- 仮小屋の柱壁には鉄砲も熊槍も立てかけてあった。争った形跡はなかった。
5人の身に何が起きたのか
こうした状況は、まさにあの「ディアトロフ峠事件」を彷彿とさせる。それにしても、いったい5人の身に何が起きたのだろうか。