この言葉を読んで、僕は完全に木澤に魅せられた
さらに、彼はとにかく叫ぶ。一球、一球、吠えまくるのである。「向井理似のイケメン」と称された木澤が「ウォリャ」とか、もはや聞き取り不可能な「◎☆△◇□!」とか、とにかく大声でシャウトしているのである。そのくせ、アンパイアからボールを受け取るときにはきちんと脱帽し、サラサラヘアをなびかせながら一礼する礼儀正しさも兼ね備えている。知性と品性と野性の同居。それもまた木澤の魅力なのである。
こうして、徐々に彼の魅力に取りつかれ、「木澤はどんなことを考えているのだろう?」と関心が募りつつあった頃、『週刊ベースボール』(22年6月20日号)に彼のロングインタビューが掲載された。このインタビューで印象に残ったのはこんな言葉だ。ピンチを切り抜けた後のガッツポーズについて問われた木澤は言う。
伊藤コーチからも「10点負けている場面でマウンドに行っても、ほえて帰ってこい」と言われているので(笑)。チームに勢いをもたらす投球というのも仕事の一つ、自分のスタイルと思ってやっていきたいと思います。
この言葉を読んで、僕は完全に木澤に魅せられた。それ以来、彼が登板するたびに、その闘争心あふれるピッチングに魅了されている。「叫んで、吠えて、シャウトしろ!」、僕はいつもそんな思いで彼の登板を見つめているのだ。
木澤よ、叫べ、吠えろ、シャウトしろ!
連覇を目前に控え、ここ最近はスワローズOBへのインタビューが続いている。先日お話を聞いた五十嵐亮太さん、館山昌平さんは、いずれも「今年の木澤はすばらしい」と絶賛していた。コントロールの定まらぬフォーシームを捨て、多少アバウトでもいいから、力いっぱい腕を振ってシュート、ツーシームを投げ込むことで、本来の持ち味を発揮することになった。そのアドバイスをしたのは伊藤智仁ピッチングコーチだという。
今年5月8日の対読売ジャイアンツ戦では2対3と、1点ビハインドの場面で登板し、四番・岡本和真、五番・ポランコ、六番・湯浅大をわずか6球で仕留めた。9回表にチームは逆転して、木澤は待望のプロ初勝利を挙げた。そこからは勝ち運にも恵まれ、早くも8勝をマークしている。現在すでに48試合に登板。シーズン終了までには、間違いなく50試合以上の登板を記録することだろう。
9日のカープ戦では大事には至らなかったものの、見ている者をハラハラさせるピンチを招いてしまった。いいときも、悪いときも含めて、それが木澤尚文なのだ。もちろん、「安定感」は今後の課題ではあるけれど、今はまだまだ粗削りでいい。かつて、伊藤コーチも背負っていた背番号《20》が神宮のマウンドで躍動する。今はそれだけで十分だ。
常に全力、常に半袖。「泥臭く」をモットーとする慶応ボーイに、僕は完全に魅了されている。ペナントレース制覇まで、あとわずかだ。彼の右腕に対する期待も、その役割も大きい。豪快な荒れ球で、今日も僕たちを魅了してくれ! さぁ木澤よ、今日も叫んで、吠えて、シャウトしろ!
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