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市の関係者が「ダイナマイトのような活躍をお願いします!」

 スーパースターなだけにBTSが政治に巻き込まれることはもはや日常茶飯事だ。BTSは7月、2030年国際博覧会(エキスポ)の広報大使に任命された。李在鎔サムスン電子副会長も大統領特使になっており、「釜山の跳躍はワールドエキスポ誘致にかかっている」(釜山日報、8月31日)とエキスポ誘致は釜山市の悲願とされている。

 現在、2030年エキスポ開催地の最有力候補はサウジアラビアのリヤドとされ、釜山市は苦戦を強いられているといわれるが、その救世主としてBTSを選んだわけだ。広報大使の委嘱式では韓悳洙首相が、「“ダイナマイト”のような活動をお願いします」と挨拶したのに続いて、関係者も「千軍万馬を得た」「(BTSのおかげで)ゲームは終わったようなもの」と意気揚々と挨拶していた。 

先の米グラミー賞でも圧巻のパフォーマンスを披露したBTS ©AFLO

 地元紙の釜山日報は「BTSの熱烈なファンダムARMYは博覧会国際事務局170の加盟国をはるかに超える197カ国に存在している」(8月29日)とBTSによるグローバルな広報の期待を込めたが、この社説の見出しは、「BTS発エキスポの熱気、来年末の総力戦まで続けば」だ。

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 さらに、「BTS、ワールドエキスポ誘致が国防義務の完遂」(同、8月29日)という見出しのコラムまで。「オイルマネーに萎縮せず、巻き返しができる可能性が持てるとすれば総力戦しかない。その第一歩がBTSの代替服務適用だといい」と主張。「軍服務免除や特恵を与えようというのではない。2030年エキスポの釜山市誘致のグローバル広報大使としての役割によりオリンピックメダル獲得に次ぐ国家的功労として代替服務とすることは合理的だ」と熱く展開している。

 実際、釜山市長が尹錫悦大統領へBTSの代替服務を直接訴え、大統領室も真摯に検討するとしたと続けている。それにしても、いくらスーパースターとてエキスポ誘致を一身に背負うのは荷が重すぎやしないか……。

政争の具に使われてしまうスーパースターの悲劇

 来月15日にはエキスポ誘致祈願のBTSのコンサートが釜山市で行われる予定で、釜山市ではコンサートの成功へ総力を傾けていると報じられた。コンサートは無料で、当初、海岸近くの敷地に10万人が収容できる特設会場を用意するとしたが、安全面に不安があるとされ、発表からわすが数日後には市内のスタジアムへ変更になった。

 釜山市内ではすでに宿泊予約が殺到。それにつけ込んだ悪徳宿所が宿泊費を10倍につり上げたり、突然キャンセルするケースが発生し、クレームも続出。釜山市が対応に乗り出していると伝えられている。

 冒頭の朴前国家情報院院長の書き込みは、一見、BTSの兵役問題への持論のようにもみえるが、27%という低支持率(韓国ギャラップ、9月2日)の尹錫悦大統領が世論を窺い右往左往する姿を嘲笑した政治的発言という評価がもっぱらだ。

笑顔でBTSと写真撮影をする文在寅大統領 ©時事通信社

 現在、韓国では与・野党の対立、さらには内部での確執も激化しており、両党とも泥沼化のカオス状態。そんな背景からも政争の具に使われてしまうスーパースターの悲劇。これは政権により都合よく使われる財閥にも通じる。BTSの兵役問題が揺れるたび、所属事務所の株価も上下し、当事者を場外においたまま、“狂騒曲”はぎりぎりまで続きそうだ。