昭和の時代からはびこる、高校野球のネガティブな問題は、令和になってもなくならないのか――。こんな感慨を抱かざるを得ない「事件」がまた起きてしまった。甲子園7回出場を誇る名門・滝川第二高校(神戸市西区)の西詰嘉明監督(52)が部員たちに暴言を吐いた問題である。

 同校は9月5日、西詰氏を一時的に交代させる方針を明らかにし、10日に開幕する秋季兵庫大会は、別の教諭が暫定的に監督を務めることに。9月9日には西詰監督を同日付で解任したと発表した。

滝川第二高野球部ホームページより

「教育的指導」という名の行き過ぎた指導

 滝川第二高の調査では、西詰氏は今年の4月から5月にかけて、新型コロナウイルスに感染した生徒を指して「〇〇菌」と呼んだり、2人の顧問教員に対して部員の前で「教師を辞めてしまえ」と叱責するなどのハラスメント行為があったという。

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 西詰氏は一部を否定したが、部員や顧問に謝罪。問題が報道された後、本人から活動を自粛する申し出があった。暴言問題については、兵庫県高校野球連盟を通じて日本高野連に報告され、処分が検討されている。

滝川第二高野球部ホームページより

 高校野球を巡る「不祥事」はこれだけで終わらない。日本学生野球協会は9月6日に都内で審査室会議を開いて、2018年、夏の甲子園で準優勝し、“金農旋風”を巻き起こした金足農業を含む9件の処分を決定。指導者による部員への「教育的指導」という名の行き過ぎた指導や、上級生から下級生に対する暴行行為、部員による喫煙や飲酒といった問題が、一部の高校でなお続いている現状が浮き彫りになった。

「高校野球と体罰」の問題

 なぜ高校野球では、こうも同じような問題が頻発するのか。一方で、近年甲子園にたびたび出場し、好成績を収めている名門校ほど指導者が率先して、こうした問題が起きないよう徹底した「意識改革」を行っている事実もある。

 拙著『コロナに翻弄された甲子園』(双葉社)の取材で、私は日大三、龍谷大平安、中京大中京、花咲徳栄、熊本工業、明徳義塾、前橋育英、八戸学院光星の8校の監督に話をうかがったが、いずれの監督も「今の時代に合った指導法を意識的に行っている」と言い切った。

 つまり「体罰」や「パワハラ」といった指導者の“上からの押し付け”を徹底して排除することに加え、いかに生徒一人ひとりの個性とやる気を引き出し、チームとして機能させるかに全力を注いでいたのである。

 私の実感ベースではあるが、高校野球の世界で、滝川第二高の監督のような「パワハラ」は常態化しているわけではない。そういった「昭和の体育会系」の雰囲気を持った野球部はむしろ減少傾向にあると思う。その例として、今回は熊本工業と日大三という、ともに甲子園の常連校の取り組みを「高校野球と体罰」の問題を考えるうえでお伝えしたいと思う。