8月15日の体操を皮切りに、今年も全国中学校体育大会、通称「全中」が始まろうとしている。しかし今年の「全中」は、例年とは違う雰囲気の中で開催されることになる。今年6月にスポーツ庁の有識者会議が発表した「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」で、教員の負担を軽減するために部活を民間スポーツクラブなどに委託する地域移行に加えて、日本中学体育連盟に対して全国大会の見直しを求めたからだ。

地域移行、全国大会の見直しなど室伏広治スポーツ庁長官は部活動問題に取り組んでいる

 全国大会の見直しが議題になっているのは、中高生の部活動における体罰や長時間にわたる練習、それを支える教員や保護者の負担といった“ブラック部活”問題の中心に「大会」が存在するためだ。大会で勝つために練習は過熱し、私立の強豪校などでは授業そっちのけで部活のためだけに登校する生徒も珍しくない。

 すでにスポーツ界では日本柔道連盟が小学生年代の全国大会を廃止するなど、若年世代での大型大会を見直す動きが進んでいる。そして今回スポーツ庁が目をつけたのが、義務教育である中学生年代の選手が集まる「全中」だった。

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“ブラック部活”は大会があるから生まれる?

「全中」を主催する中学校体育連盟(以下、中体連)は大会の意義を主張し、廃止や縮小に向けた動きは今のところ見られないが、実はその中体連が「大規模大会を抑制し、全国大会の開催を食い止めるために作られた組織だった」という驚きの論文が7月に発表された。

 発表したのは、20年にわたって部活を研究する中澤篤史氏(早稲田大学スポーツ科学学術院教授)。全国大会を食い止めるために作られた中体連がなぜ全国大会を主催するようになり、さらに全国大会強硬派の筆頭になったのか。中澤氏に話を聞いた。

写真はイメージです ©iStock

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――“ブラック部活動”という言葉はすっかりメジャーになりましたが、中澤さんは部活動のどんな部分が問題の中心だと考えているのですか?


中澤 大きく分けて部活に参加する子どもの問題と、指導する教員の問題があると思います。子どもの問題は長時間の練習や体罰、暴力といったもの。文科省が最初に取り組み始めたのもこちらで、2013年には「運動部活動での指導のガイドライン」が作成されました。もう1つが長時間労働など教員の負担が大きすぎる問題で、こちらは2018年にガイドラインが出て、2021年の「#教師のバトン」の炎上などでさらに広く認知されました。

――その2つの問題がどちらも、全中のような「大きな大会」の存在によって引き起こされている、と中澤さんは主張されています。

中澤 そうです。体罰や長時間の練習も、大会で勝つことが目的で引き起こされてきた側面があります。大会で勝つことを最優先する“勝利至上主義”のもとで、部活熱はエスカレートしてきました。とりわけ全国大会は子どもにとっても学校にとっても晴れ舞台ですから、その影響は大きい。しかし大会で勝つことを優先しすぎれば授業やプライベートの時間を侵食しますし、全員がどれだけ頑張っても実際に全国大会に出られる生徒はほんの一部。大半の生徒にとっては出場もできない大会のために過剰に厳しい練習を強いられている状態です。