1969年(139分)/フジテレビジョン/4180円(税込/写真はBD版5170円)

 ついに、本連載も今回で五百回目を迎えることになった。おかげさまで、丸十年だ。

 そんな最高のタイミングで、最高の作品がDVD&Blu-ray化された。愛して止まない『人斬り』だ。そこで、今回はこれを取り上げる。

 作品として素晴らしいのももちろんだが、実は「研究家」としてのキャリアの上で重要な作品でもある。というのも、最初の著書『時代劇は死なず!』は本作のスタッフたちを中心に取材したものだし、その次に出したのは主演の勝新太郎の評伝。初めて出した俳優のインタビュー本は、主要出演者の仲代達矢。監督をした五社英雄の関係者三十名に聞き書きしたムック本を出したし、評伝も書いた。そして今は、これまでの研究の集大成である、本作の脚本家・橋本忍の評伝を執筆中だ。

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 ――という具合に、キャリアの要所ごとに本作の関係者に取材したり、検証してきたのである。『人斬り』関連の取材だけは、誰にも負けないという自負がある。連載五百回目を飾るのに、これほどふさわしい作品はないだろう。

 舞台は幕末の京都。土佐勤皇党を率いる武市半平太(仲代)の下で、反対勢力の暗殺に勤しむ「人斬り」、岡田以蔵(勝)の悲劇が描かれる。

 強烈なインパクトを与えるのは、次々と繰り広げられる、さまざまに工夫の凝らされた斬殺シーンだ。

 序盤の土佐執政・吉田東洋(辰巳柳太郎)殺害シーンは、斬られる者の痛みまで伝わってくるほど生々しい。以蔵が劇中で初めて人斬りをするシーンは、京都ならではの狭い路地を使い、家屋の格子ごと叩き斬るパワフルさ。石部宿の巨大セットで展開される、「四派合同の人斬り」は画面全体が血で塗りたくられたようなお祭り騒ぎだ。

 こうしたド迫力の殺陣を包み込むのは、夏の京都の蒸し暑さまでも映し出す異様な映像美。その陽光は、時代の激動期が駆り立てるギラギラした熱い狂気として伝わり、鮮血の臭いが本当に画面の向こうから漂ってくるようだった。

 残酷なのは、殺陣だけでなくドラマもそう。以蔵は貧しさへの苛立ちから人を斬る魔性に囚われ、武市に忠誠を尽して手を汚し続けた。だが、用済みとなれば無残に捨て去られ、破滅する。そんな橋本脚本らしい理不尽な展開を、動─熱の勝、静─冷の仲代という両名優の対極的な芝居が浮き彫りにし、飼い犬の哀しみが突き刺さってきた。以蔵に優しい気遣いを見せる坂本龍馬役の石原裕次郎をはじめ、三島由紀夫、倍賞美津子、仲谷昇、下元勉、山本圭といった豪華メンバーも、それぞれの役割を見事に演じ切る。

 隅々まで隙のない作品だ。