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1年の電力消費量は“一般家庭2800世帯分”…「水族館の入場料」が動物園よりも高い納得の理由

『沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?』 #1

2022/09/17
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 こうして、1通のメールから始まった入院する子供たちへの取り組みは、全国の希望する病院・支援学校に向けた常設のオンラインプログラムへと変化を遂げた。2年以上にわたるコロナ禍で、本プログラムは既に130回を数え、延べ2600人の子供たちと水族館が繋がった(2022年3月現在)。新型コロナの感染者が増加するたびに、病院の対応が厳しくなる様子が手に取るように分かる状況の中、子供たちの笑顔は私を含めた水族館スタッフの大きな活力になった。

 休館を求められ、誰もいない水族館を独り占めできる体験は、きっと多くの子供たちにとって忘れ難い思い出になったはずだ。長い時間を病室という閉鎖された空間で過ごすストレスの軽減や、苦しい治療に立ち向かう前向きな気持ちを得るため、私たちが少しでも役立てば本望だ。誰一人取り残さない社会を目指し、子供たちに少しでも潤いのある時間を提供するつもりだったはずが、逆に我々自身が勇気づけられたような気がする。

水族館にかかるコストの話

 このような取り組みは、コロナ禍における水族館のごく限られた一面でしかない。では、私たちサメ博士を含む多くの職員は休館中の水族館で一体何を思い、どのような仕事をしていたのか?

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 当然のことだが、水族館が休館すれば来館者から得られる入館料金や、売店などの営業収入が絶たれてしまう。日本には水族館と名の付く施設が100以上存在しているが、それぞれの設立目的や運営形態は多様だ。例えば、自治体が直接運営している水族館であれば、その運営の原資は公的資金であり、財政的には安定した運営が可能だろう。一方、民間企業が所有する水族館は、営業利益が無ければ館としての運営自体が困難となる。

 現在、日本国内の施設では、指定管理者制度あるいはPFI(民間資金等活用事業)という枠組みで運営される水族館が多く存在している。沖縄美ら海水族館もその一つで、内閣府沖縄総合事務局が設立し、沖縄県が管理者となり、その実質的な運営を指定管理者である一般財団法人沖縄美ら島財団が担っている。指定管理者制度により運営されている全国の動物園水族館には、基本的に政府や自治体から運営経費を支出することなく、事業者が独自に入館料収入や営業収入を基にして管理を行う「利用料金制」の園館が多くみられる。特に大きな災害もなく安定的に運営できる状況下であれば、自治体にとってコスパの良い運営形態であろう。