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 しかし、時の政治や社会の風潮の変化によっては、極めて不安定な立場に置かれてしまう場合もある。特に、学術標本や歴史的資料など貴重な文化財・自然史財を永続的に管理所蔵する施設がこの制度を導入する場合には、本当に永続性が担保されるのか? という問題点があることも事実だ。沖縄美ら海水族館も、現在は私たちの財団が運営を担っているが、政治や行政の方向性次第では、全く別のコンセプトをもつ運営者に変わってしまう可能性も大いにあるのだ。

 話が逸れたが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大により、利用料金制により運営されている施設管理者は、きわめて厳しい運営を迫られることになってしまった。もともと水族館は、博物館や他のレジャー施設と比較して、運営コストが群を抜いて高い。その理由は単純明快で、「水の中にすむ動植物を多数飼育しているから」である。水棲動物を飼育すること=水環境を維持することであり、ここに莫大なコストがかかるのだ。飼育水を維持するためには、ライフサポートシステム(=濾過循環装置や海水の取水ポンプ、温度維持装置など)を24時間稼働させる必要がある。

なぜ「水族館の入場料」は動物園よりも高いのか?

 読者の皆さんはお気づきかもしれないが、一般的に動物園よりも水族館の入場料が高めに設定されている理由はココにある。特に、沖縄美ら海水族館のような巨大な水槽を24時間365日維持するためには、かなりの電力と人的なコストがかかっている。

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水族館の維持には莫大なコストがかかる(写真提供:海洋博公園・沖縄美ら海水族館)

 ちなみに、沖縄美ら海水族館の施設全体を維持する施設では、年間1000万kwh前後の電力を消費している。これは、おおまかに一般家庭の約2800世帯分の年間消費量に相当する電力量である。もちろん、水族館の管理者として我々は省エネに取り組んでおり、この10年で10%近く消費電力を削減してきた。

 一方、最新機器の導入やLED照明への転換などには多額のコストがかかってしまう。そんなわけで、水族館は閉館している間も通常と同じエネルギーコストがかかる上、それを維持管理するための人件費や、動物を養うためのエサ代も必要になる。とりわけ人件費は、当館でも最も支出割合の高い費目だ。入場料や営業収入が無い以上、閉館している間は収入ゼロにもかかわらず、莫大なランニングコストを支払わなければならない。

 私たちも、出来る限りのコスト削減をすると同時に、職員の感染拡大を防ぎながら、動物を良好な状態で維持するという難題を克服するため、様々な運営上の工夫を求められることになった。

沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか? サメ博士たちの好奇心まみれな毎日

佐藤 圭一 ,冨田 武照 ,松本 瑠偉

産業編集センター

2022年6月15日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。