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オタクはなぜ「推しカラー」を集めるのか? “なにもない壁にもうっとり”する奇妙なファン心理を専門家が解説

『「推し」の科学』より#1

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推し活とプロジェクション「持ち物が推しの色ばかりに…」

 プロジェクションって、いわゆる思いこみや勘違い? だったらこれ、もしかしたらプロジェクションなのかも、と思いあたるようなエピソードはあるでしょうか? 

 自分の身近にあるプロジェクションってなんだろう。そんなことを考えながら、プロジェクションの詳細について聞いていただけたらと思います。

 同じモノを見ていても、人によってその意味が違う。同じモノであるのに、この前といまでは自分のなかで意味が違う。日常でも本当によくあることです。私たちの世界は、ただ物理的なモノが存在しているだけではありません。プロジェクションによって、物理的なモノにひとりひとりが「意味」をつけているのです。そのようなこころの働きによって、世界はモノと意味とで彩られています。

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「推し」を推す人たちの「推し活」には、物理的なモノに意味をつけているプロジェクションがよく見られます。同僚の例にあったネイルやバッジや艦船は、それぞれの「推し」に関するその人なりの想いが、モノとしてのそれらに投射されています。そうすることで、モノは特別な意味を持って彼女たちの世界を豊かにします。

 ゼミ生の文房具をふと見たら、ある色のものばかりだったので「これ、あなたの推しの○○のカラーだね!」と言ったら、「そんなつもりはないんですけど、なぜか持ち物が推しの色ばかりになっちゃうんです……」とのこと。その人にとってその色は、ほかの色とは違う特別な意味を持つ色なのです。「推し」のいる(ある)人にとっては、このようなエピソードは枚挙にいとまがないでしょう。

「推し」のグッズはいまや、そのものがついているものばかりでなく、イメージを彷彿とさせるようなものも多くなっています。色やかたち、数字や香りなど、さまざまなモノを手がかりとして「推し」のイメージが投射されたグッズがあります。公式に販売されているグッズばかりでなく、イメージに合うものを自分で見つけだしたり、作ったりすることも「推し活」の楽しみです。それらも、プロジェクションというこころの働きがあってこそなのです。

「推し」を推すとは、ファンである自分が対象をめぐって「なにかをする」ことだとお話ししました。することの内容はさまざまですが、どれも自分のなかの世界を外の世界とつなぐような働きかけだと言えます。

「推し」にかぎらず、そうやって自分と世界をつなぐ時に、そこに私たちは「意味」をつけています。意味をつけることで、その人だけの世界はその人らしく、ほかの人たちやモノが存在する世界とつながっているのです。だから、つながりは人によって千差万別ですし、個人のなかでも時とばあいで変化もします。

 そのようにつながりのかたちはいろいろですが、そのメカニズムやダイナミズムは共通しています。なぜなら、かたちは違ってもプロジェクションというこころの働きは同じだからです。人間はプロジェクションによって、自分を含めた世界を受け身で認識するだけでなく、自分で世界を意味づけて生きているのです。

オタクはなぜ「推しカラー」を集めるのか? “なにもない壁にもうっとり”する奇妙なファン心理を専門家が解説

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