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 何ごとも運命、という母親の教えも大きかったと思います。

 また、思いがけずある方からかけられた言葉を、勝手に支えにしていました。

無名の綾部を勇気づけ立川談志師匠

 2002年のM-1グランプリでのことです。ぼくはまだピン芸人で活動しており、当日、前説の役目で現場に入りました。

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 その年は、審査員に立川談志師匠もいらっしゃったので、楽屋に挨拶に行ったんです。

 ガチャッと扉を開けると、おそらくお孫さんでしょうか、談志師匠は小さなお子さんといらっしゃいました。

「本日、前説をやらせていただきます、ピン芸人の綾部祐二です!」

 そう挨拶をして楽屋を出ようとしたときに、談志師匠は「おい」と声をかけ、こうおっしゃられました。

「おまえ、いい目してるよ。ぜったい売れるから、辞めるんじゃねえぞ」

立川談志師匠 ©文藝春秋

 まだ前説をやる前ですし、ぼくのことなど、何ひとつご存知なかったと思います。

 こんな話、証人もいないですし、「噓つけ!」と言われてもかまわないんです。

 ただ、重要なことは、ぼくはその談志師匠のお言葉を聞いて、その後、何年間も泣かず飛ばずでも、「あの談志師匠が言ってくれたんだから、きっと売れるだろう」と漠然と思えたということなんです。

 いつか、また談志師匠にお会いできたら、「どうしてあんなことを言ってくださったんですか?」と聞いてみたかったんですが、お亡くなりになってしまったいま、それは叶いません。

 たまたま渡米する前に、談志師匠と近しい方にお会いする機会があったので、この話をしてみました。

 その方はこうおっしゃってくれました。

「誰にでもそんなことを言う人じゃなかったし、ましてや、思ってもいないことを誰かに言うような人じゃなかった」と。

HI, HOW ARE YOU?

綾部 祐二

KADOKAWA

2022年7月15日 発売

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。