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「ぜったい売れるから、辞めるんじゃねえぞ」まだ無名のピン芸人・綾部祐二を勇気づけた“立川談志”の言葉

『HI, HOW ARE YOU?』 #2

2022/09/23
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大事な「前説の仕事」をすぐ辞めた理由

 ピースとしての下積み時代、前説の仕事がありました。

 無名の芸人にとって前説はチャンスなんです。テレビ局に入ることができて、スタッフさんとも知り合える。大勢の人たちに自分たちの芸風を認識してもらえる。

 前説でいちばん必要なのは、とにかく明るく元気にお客さんのテンションを上げることです。ふたりして「どうもみなさん〜!」とやるわけですけど、ご存知のとおり、相方はそういうタイプではないんですね。あきらかにしんどそうだったので、早い段階で会社に言って、前説の仕事は辞めさせてもらうことにしました。

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 ぼくはぼくで、結果を出さねばと焦っていました。一方で、テレビで若手が求められるものとはことごとく真逆の要素を持つ相方も、いまでこそそれがスタイルになっていますけど、当時は大変だったろうなと思います。

 よく、「ピースのおふたりって対照的ですよね」と言われます。

 表面的にはそうかもしれない。

 ただ、ぼくが思うのは、コンビやパートナーの結束は、好きなものに対してよりも、嫌いなものに対してのほうが発揮されるのではないか、ということです。

 そういう意味で、ぼくと相方は嫌いなものがわりと似ています。好きなことはそれぞれなんですけど、あいつが嫌いなやつ、嫌いな仕事は、ぼくもぜったいに嫌いなんです。

 もっと言うと、敵が共通なんですよね。

 ふたりとも、芸能界というか芸能界の論理に抵抗したくなるところがあるんです。

 だからマネージャーにも、こう伝えていました。

「ぜひピースさんに、という指名で来た仕事だけを入れてくれ。間違っても、こちらから番組にねじ込むようなことだけはしないでほしい。もし、そんなことをしなければならないくらい仕事がないんだったら、オレたちはいつでも芸能界を辞めて、京都でふたりで古書店兼カフェをやるから」

 もちろん、売れたいとは思っているんです。

 下積み時代から、意識していろいろとやってきました。

 まず、ぼくがありがたかったのは、ライブで一緒にやっていた先輩たちが次々とテレビの世界に飛び込んでいったことです。

 彼らに導かれて、ぼくもいろんな番組の現場を覗いたり、いろんな業界の人たちに会いました。そこで思ったのは、「これ、本当に売れようと思ったら、ネタよりも平場が重要だぞ」ということでした。