文春オンライン

2022/10/03

シビアなカネの交渉

 葬儀屋は、いわゆる「お葬式」のすべてを取り仕切る。一般的に、遺体の搬送・安置、お通夜、告別式の手配や仕切り、そして火葬という流れがあり、それらの必要経費や人件費をひとまとめにしたものが「葬式代」となる。

「火葬代は別として、一般的な葬儀だと、まずかかるのが式場の使用料。それと棺、祭壇、お花代。これも値段がいろいろある。それと参列者に配る返礼品や食事代。これも人数によるけど、高額になる。ウチは出入りの業者が何社かあって、そこで固めてるからパック料金みたいな形で売り込むんだけど、別にバラバラに頼んでも構わない。それぞれにランクはあるけど、安くしようと思えば安くできるし、高くしようと思えばいくらでも高くなる」

 とはいえ、喪主からしてみれば、参列者がどのくらい来るのかなどなかなか予測がつかない。棺や祭壇もどのランクにすればいいのかもわからない。そんな知識も経験もない相手に巧みに売り込んでいくのが見積もり役の仕事だ。

「見積もりは、時間が無いなかで決めなきゃいけない。言い方は悪いけど、そこに付け込むのが我々の商売。これも足しときましょうとか、お花はこっちにしましょうとか、予算を積み上げていく。

 葬儀会社としては、ここがビジネスチャンスのすべてなんだけど、俺は精神的にキツかったね。喪主さんは、憔悴してるというか、基本的に精神状態がまともじゃない。家族が亡くなってるんだから、当たり前だよね。単純に相手が泣いている状態で、シビアなカネの交渉をしていくというのは罪悪感があった。

 遺族のなかには、もちろん平常心の人もいるし、笑ってる人もいる。やっと介護から解放されたみたいな晴れ晴れした表情の人とかね。それでも葬儀なんて慣れてる人は少ないというか、経験したことないことばかりだろうから、こっち側のほうが有利だよね」

 なかにはケンカ腰で切り詰めてくる喪主もいるという。

「絶対騙されないぞ! と、気合いを入れてくるというか、すべてを疑ってくる人もいる。『いや、この費用は絶対かかります』と言っても、『なぜそうなるのか説明しろ!』とすごい剣幕でね。こっちも疲れるけど、そこを積んでいくのがこちらの腕の見せどころ。『わかりました。でも、せめてこのお花をつけましょうか』とか、のらりくらり攻めていく」