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――師匠にはどのようなご報告をされたのですか。

稲葉 入籍の2ヵ月ほど前ですかね。親に会わせるタイミングで師匠にも会ってもらいました。最初に伝えた時は驚いていましたね。実は私が報告する直前のタイミングに、菅井君が師匠に「稲葉さんは結婚しないでしょうね」と言っていたそうです。

 最近、地元の後援会に妻を連れて行く機会があったので、会っていなかった弟弟子にも顔を見せることになりました。横山君(友紀四段)からは『妹さんですか?』と聞かれて、面白いことを言うなと(笑)。

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――井上一門の結束力がわかった気がします。稲葉さんご自身が弟子を取るということは今後あるのでしょうか。

稲葉 師匠からも「どうや」と言われるようになってきましたね。師弟トーナメントで指した時は「40になったら取って」と言われましたが、最近はもう少し早くという雰囲気もあります。ただ、自分の弟子になるより井上一門の弟弟子のほうが、一門研に入りやすいのではという考えもありますね。

 

現時点の課題は「藤井竜王にどのように対抗していくか」

――これまでの話で、同世代の棋士に対する考えや、一門の兄弟弟子に対する姿勢をお聞きできました。将棋界の人間関係は幼少の頃に作られたものが生涯にわたって続くことが多いのではと思いますが、稲葉さんにとってはその頃から知っている棋士を言葉で表現するとどうなるのでしょうか。

稲葉 どうなんでしょうね。友人かというとなんとも言えません。もちろん、人によるというのもありますけどね。例えば、小学校低学年の頃から知っている船江さんならば友人といえるかもしれません。どう答えたらいいのかな。ライバルや戦友という言葉が全員に当てはまるかどうかも難しいですね。

――最近の将棋界で注目されている話題についてもお聞きします。里見香奈女流五冠の棋士編入試験はどのように見ていますか。

稲葉 受験資格を得るまでに勝ってきた相手がすごいですよね。将棋の内容もよく、充実を感じます。それでも試験は相当プレッシャーなんだなと思いますね。伸び伸び指せれば勝ってもおかしくないのでしょうが。あとは過密日程の影響もあるのかな。プロになって欲しいと願う人が多いとは思います。

2010年6月8日、第81期棋聖戦五番勝負第2局羽生善治棋聖対深浦康市王位が島根の玉峰山荘で行われた時のもの。宿で里見香奈女流二冠と趣味の卓球をプレーする稲葉陽四段(段位・タイトルはいずれも当時) ©相崎修司

――藤井聡太竜王の登場で、将棋界はどのように変わったとお考えですか。

稲葉 藤井聡太さんが登場してからも、8割勝つ若手棋士が毎年のように出てきました。でもその若手は藤井さんがいるから満足していません。このような傾向は我々の世代にはなかったことです。自分より年下が勝つと特に気を緩められませんから、底上げが激しくなりましたね。

――稲葉さんご自身の、これからの目標をお願いします。

稲葉 藤井さんが20歳であれだけ完成して、さらに伸びしろがあると考えるということがどうかですね。藤井さん一人が圧倒的過ぎてもつまらないでしょうし、自分の立ち位置で諦めては面白くありませんから。現時点の課題は藤井さんにどのように対抗していくかということになりますね。

写真=平松市聖/文藝春秋

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