名人への挑戦権を争う順位戦A級リーグ。今期は藤井聡太竜王が初参加したことでも注目を集めているが、現在2勝1敗と好位置につけているのが藤井竜王と同時にA級へ昇級した稲葉陽八段だ。
前々期は武運つたなく、A級から降級の憂き目を見たが、前期のB級1組で9勝3敗の好成績を上げてすぐさま復帰。B級1組では藤井竜王との直接対決も制している。さらには、全棋士参加トーナメントのNHK杯では、3度目となる決勝の舞台にて初優勝を果たした。
好調が続く稲葉八段にA級復帰の要因などについて聞いてみた。
A級陥落を振り返って
――今期はB級1組からの復帰という形でのA級参戦ですが、改めて順位戦A級を戦うということについてお話しください。
稲葉 B級1組に落ちた時はショックでしたけど、対局数が多いので(A級は9局、B級1組は12局)、対局を重ねていくごとに調子が上がってきた感じです。
改めて戻ってみると、A級は対局が少ない分、他棋戦で勝たないと実戦を指す機会が増えません。今年度は、年度初めは良かったのですが、最近は負けが込んで対局が減りました。こうなると長い持ち時間の将棋を指す機会が順位戦だけになりかねないので、昨年取り戻した調子や感覚もなくなる心配があります。そこはどうにかしないといけませんね。
――前々期のA級陥落についてはどのようにお考えですか。
稲葉 この年の将棋は、序盤の早い段階で研究から外れる将棋が多かったです。私はもともと、自身の好きな形を突き詰めるタイプの研究が好きなのですが、最近の流れとしては相手の研究をいかに外すかというのがプロ間での主流になっています。作戦の幅が広くなったことに対応できておらず、それを痛感しました。研究でも色々な形を網羅するように心掛けて、以前よりはそれができるようになったと思っています。
すぐの復帰というのはなかなかイメージしづらかった
――前期のB級1組では、同じクラスに藤井聡太竜王もいました。結果として稲葉さんが藤井竜王を破り、またお二人がA級昇級を果たしたわけですが、A級復帰は当初からの目標だったのでしょうか。
稲葉 藤井さんとの将棋は開幕戦を負けての2局目でしたが、その前のA級が5連敗フィニッシュだったので、順位戦トータルでは6連敗という状況でした。対して相手は順位戦で22連勝中。正直、勝つイメージがまったくわきません。ただそれで肩の力が抜けたのが良かったのでしょうが、いい内容の将棋を指せたと思います。研究自体は相手の方が深く、前述した研究を外れてのもろさというのはまだあったころですね。藤井さんに勝ってからも一進一退で序盤は3勝3敗。すぐの復帰というのはなかなかイメージしづらかったです。
――そもそも、稲葉さんは藤井竜王の強さがどこにあるとお考えですか。