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日常のコミュニケーションがSNSの言葉遣いに浸食されている

石井 若い子たちほど、SNSを使いこなしている自信があると思うんです。ただ、SNS上の言語は、非常に短くて、感情を極端な単語で一括りにして、パッと吐き出す傾向にあります。きちんと思考して論理だった説明をしていたら、「長文ウザっ」てなりますよね。だから、その瞬間の感情をわかりやすく極端な単語やスタンプで吐き出しがち。

 でもリアルのコミュニケーションはもっと複雑で、人と付き合ったり信頼し合うためには考えて行動しないといけない。うまくいかない時にこそ、言葉をよく考えて、いかに関係性を築くかが問われます。日常のコミュニケーションが知らず知らずのうちにSNSの言葉の使い方に侵食されているような今、深い人間関係を構築するのが苦手な傾向があると思います。

伊藤 相手がどう自分の言葉を受け取るか、人とどうやって付き合っていくかは人として生きていくうえでのスタートラインです。本書に出てくる国語力の乏しい子どもたちは社会のなかでの自分をわかっていないし、相手のことも理解できない。

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 私はいわゆるFランクと呼ばれる大学の非常勤講師もやってきましたが、日本語表現の授業がありました。小説を書かせたりするような創作の授業ではなく、大学からのオーダーは「半年で履歴書を書けるようにしてほしい」というものでした。

履歴書の志望動機に「給料が高くてラクそうだから」

 どういうことだろう?と思って最初の授業で、空欄の履歴書をコピーして配り、学生たちにアルバイトの応募をする想定で書いてもらったら、もうびっくりするほど書けないんですね。そもそも左のものを右に写せずに書く欄がズレていたり、志望動機には「給料が高くてラクそうだから」などと平気で記述してある。素直と言えばあまりに素直ですが。

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「バイトを審査する側に立ったら、この履歴書を見てどう思うか?」と想像できないんです。

石井 僕が取材に行ったある高校は、卒業生の多くが就職するので、高3の1学期から就職指導がはじまるのですが、まさに履歴書の書き方であり、面接の仕方が問題になっていました。

 本書にも書きましたが、入社試験の面接官が志望動機を確認しようと「なんでうちに来たの?」と聞くと、生徒は平然と「電車で来た」と一言で答える。あるいは、面接官がその子のやる気やスキルを確認しようと自己アピールを促すと、「俺はAB型で、身長173センチ、体重は65キロです」と答える。だから、高校は何カ月もかけて生徒に面接の特訓をするのですが、そこまでしてもみんなができるようになるわけではないそうです。

 なぜこうしたことが起こるのか。生徒が面接の会話の文脈を読み取れていないのです。状況を把握し、相手の質問意図を想像し、話の流れを踏まえた上で、適切な返答をするという基本的なことができない。

 これは面接のやり方がわかっていないということではなく、日々のコミュニケーションの中でそうした経験を積み重ねてこなかったため起きていることなのです。こうした子供たちが面接に合格して社会に出たとしても、様々なところで生きづらさを感じるのは当たり前です。