博多生まれで天才的な歌のセンスを持つミチル、大手芸能プロダクションの専務を父に持つサラブレッドの真由。10代の全くタイプの異なる女子二人がデュオでデビューし、昭和の歌謡界で成り上がる……。そんなストーリーに、胸が躍らないわけがない。
「ノンストップで読んだ、と言われるのがいちばん嬉しいですね。今回はエンターテイメントを突き詰めてみたい、という気持ちがあったので」
著者の村山由佳さんはそう語る。新作長篇『星屑』は、「スター誕生」をテーマに書かれた作品。地方紙に連載されたのちに単行本として刊行された。
「やっぱり皆さんが、朝、新聞を広げて最初に読むお話が気持ちのいいものであってほしいので、私のなかにある爽やかで清い部分を総動員して書きました(笑)。芸能界の『光』の面をクローズアップしていますが、かといって、まったく綺麗事で話が進められるわけでもない。光を目指そうとする人間たちの葛藤は、きっちり書こうと思いました」
それぞれ違った形で秘密を抱えつつ、スターへの道をひた走るミチルと真由に加え、この物語で重要な役割を担うのが二人のマネージャー、桐絵だ。自分の人生をかけて二人を売り出そうとする彼女の仕事を超えた献身ぶりに圧倒されつつ、芸能界はきっと、そんな人たちに支えられているのだと思わされる。
「裏方には裏方の、報われ方があるんですよね。私は新人賞の選考委員になったことで、それと近い経験をしました。小説の新人賞って、100人デビューしても10年後に残っているのは数人、というような世界。そんななか、選考委員同士で意見を戦わせて、最終的に1人を選んで送り出すときの『うまくいってほしい』という思いには、本当に何の打算もないんですよ。その人が乗った舟の帆に、どうにかして風を送ってあげたい、という気持ち。それを知っているだけに、桐絵の気持ちにすっと入っていけたのかもしれません」
ほかにも、大御所演歌歌手や、オーディションの審査委員長を務める売れっ子作曲家など、綺羅星の如く個性の強い人物が登場するのは、昭和の芸能界を描いた小説ならでは。しかし、だからこそ執筆は一筋縄ではいかなかったという。
「新聞連載だったので、きっちり綺麗にまとめたいと思って、私の作品には珍しくかなり内容を固めてから書き始めたんですけど、一人一人のキャラクターが強いから、まっすぐ行くって感じではなかったですね。全体としてはこういう風に動かしたいんだけど、キャラクターに強硬に抵抗されるようなこともあって。それぞれ自分のプライドも、譲れない一線もあるし、簡単には折れてくれない。頑固な人が揃っていました(笑)」
小説の舞台を昭和に設定したことで、新たに見えたものもあったという。
「時代小説を書く人の気持ちが、半分くらい分かりました。今、本当に技術の進歩や世相の変化が著しいので、現代を書こうとすると、書いた途端に古びてしまう。でも、過去に輝いていたものは古びないんですよね。自分が書きたいことを時代をスライドさせて書くっていうのは一つの鉱脈だな、と。そのおかげで、細かいことを気にせず、最後までエンジン全開で突っ走ることができました。ベタかもしれないと思う展開もありますが、ベタってつまり、みんなが気持ちいいツボってこと。皆さんにも気持ちよくベタに酔っていただきたいです」
むらやまゆか/1964年、東京都生まれ。93年『天使の卵―エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞。2003年『星々の舟』で直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞ほか、『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞を受賞。