北朝鮮からのミサイルが着弾したら、日本はどう対処できるのか? 月刊「文藝春秋」2022年6月号に掲載された総特集「誰のための戦争か?」より、山下裕貴氏×阿南友亮氏×小泉悠氏×古川勝久氏による大座談会「日米同盟vs.中・露・北朝鮮 緊急シミュレーション」の一部を公開します。
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第二次朝鮮戦争に備えよ
古川 核・ミサイル開発における金正恩の最終目的は、「レジーム・サバイバル(体制の存続)」にあります。ですから金王朝の体制の安定が保証されるのであれば、金正恩は冒険的な行動はとらないと長年見られてきました。しかし第一章でも話題になりましたが、この数年、北朝鮮のミサイルのターゲットはアメリカから韓国に徐々に移りつつある。そこで考えておかなければならないのは、朝鮮半島における北朝鮮と韓国の第二次朝鮮戦争です。
北朝鮮は、ウクライナ戦争から大きな教訓を得たはずです。現状を見ると、アメリカやNATOからの支援がロシアを苦しめている。ならば朝鮮半島における戦争では、韓国の補給ルートを真っ先に断つことが重要だと学んでいます。韓国は国土がぐるりと海に囲まれているため、港湾施設や空港を徹底的に叩けば、韓国への補給や増派は難しい。
北朝鮮はこの4年間、韓国のどの地点でも攻撃できるよう、短距離ミサイルを重点的に開発・製造・配備してきました。例えば、韓国のミサイル防衛システムを突破するため、変則的な航路を飛ぶミサイルを開発。固体燃料推進型の弾道ミサイルを開発し、発射準備の探知を難しくしました。また、陸上の移動式発射台に加えて潜水艦や列車からもミサイルを発射できるようにした。そのような奇襲攻撃能力の向上もあり、北朝鮮のミサイルの脅威は数年前に比べて高まっています。
初動から核を使う
小泉 小型核を使用しながら戦えば、朝鮮半島を南下できるんじゃないか――そのような見込みを北朝鮮が持ち始めているのだとしたら、相当厄介な話になりますよね。
山下 北朝鮮は意外に臆病なところがあります。よく言えば慎重な国。韓国の哨戒艦を魚雷攻撃するなど、ちょっかいを掛けてくることはあっても、38度線を越えるような大胆なマネはこれまでしたことがありません。
核戦力は別として通常戦力で見ると、北朝鮮の軍隊は、韓国軍60万人に対して128万人と数は多いけれども装備が古い。韓国軍は在韓米軍も含めて性能の良い兵器を保有していますから、通常戦力でガチンコ勝負をしても北朝鮮は負けてしまいます。そのことはよく自覚している国です。
古川 そうなると、戦闘では核・ミサイル戦力に頼らざるをえない。核の先制使用の誘惑が強く働くでしょう。エスカレーション抑止のために、初動からミサイルに戦術核弾頭を搭載する可能性もやはり排除できない。
今年4月、平壌での軍事パレードの際、金正恩は核の抑止力に加えて、核を先制攻撃に使う可能性や全部隊の指揮命令系統の近代化の方針にも触れました。
ただ、アメリカは韓国と同盟を結んでいるので、北朝鮮と戦争になれば自動的に介入することになる。米軍の介入または増派の阻止が、北朝鮮にとっては一番の課題です。3月に発射したICBMは、米軍の朝鮮半島への介入を阻止するために、米国に対する脅しとして使うつもりでしょう。
横須賀を狙ったはずが横浜に落ちてしまう?
山下 日本への影響についても考えたいと思います。朝鮮半島での戦争において、日本は在韓米軍の後方兵站基地としての役割を担う。米軍への協力を防ぐため、当然、日本に対しても核の脅しをかけてくる。
また、朝鮮戦争勃発時に組織された国連軍は今も活動を続けていて、その後方司令部は日本国内にあります。朝鮮半島有事となれば、最悪の場合、日本にある国連軍基地(米軍)が攻撃されるかもしれません。狙われる可能性が1番高いのは、横田、横須賀、あるいは岩国です。その際に、ミサイルが逸れてしまうかもしれない。北朝鮮のミサイルは米軍などのものと比較すると精度が劣るので、横須賀を狙ったはずが横浜に落ちてしまった、なんてことになるかもしれません。
古川 補足しますと、北朝鮮がミサイルに核弾頭を積んで日本の本土に着弾させることは、すでに技術的に十分可能と考えられています。防衛省も北朝鮮の能力について、そのように評価しています。