「現金が足りないんです」。東京第一銀行長原支店で100万円が紛失した。捜索の最中、営業課の北川愛理のバッグから、当日の日付印と銀行ロゴの入った帯封が見つかった。同課課長代理の西木雅博は、彼女の無実を信じて庇(かば)う。ほどなくして現金は発見されるが、独自に調査を続けた西木は、忽然と姿を消してしまう――。
『シャイロックの子供たち』は現金紛失と失踪事件に直面した行員たちの姿を描く連続ドラマ。原作は池井戸潤氏の小説で、初の映像化だ。玉山鉄二さんは本部から事実究明のために派遣される人事部調査役・坂井寛を演じる。
「坂井はストーリーテラーであり探偵役でもあります。全編で話す情報の多さに苦労しましたが(笑)、無機質で、打っても響かない風紀委員のような人物として演じました。表情はほとんど変えず、頷きも極端に少ない。周囲から煙たがられるほどに。ただ物語が進むにつれ、かつての熱く、仲間思いな一面が垣間見えてきます。予定調和では人の心は動きません。僕は、視聴者に『え?』と思わせる違和感、雑味を大切にしています」
坂井の調査で、支店内の人間関係や事件の真相が明らかになっていく。西木(井ノ原快彦)は出世コースから外れたが、周囲の信頼は篤い。北川(西野七瀬)は家族のため給与を家計に入れつつ、社内恋愛をしている。業務課課長代理の滝野真(加藤シゲアキ)は営業成績抜群で支店のエースだが、過去には……。副支店長の古川(萩原聖人)は厳しいノルマを行員に課していた。
「男ばかりの群像劇は、僕ら40代の物語だと思っています。サラリーマンとして経験を積み、責任ある仕事を任されるようになる世代。生きがいや幸せを掴みかけてもいる。しかし一方で、上司には逆らわず、保守的に仕事をしていないか。出世の不条理や葛藤を感じてはいないか。そういう生々しい感情から、犯行にいたる過程や心の機微を表現して、視聴者に感動してもらうのが俳優の醍醐味。そのプロセスをどう導くかが自分の役回りで、責任重大でしたね」
タイトルにある「シャイロック」とは、シェークスピアの戯曲『ヴェニスの商人』に登場する強欲な金貸しだ。目の前の金の誘惑に負ければ、どんなに高潔な志を持った銀行員も、そうなってしまう。
「現代は主観で物を言う人が多いと思うんです。相手に寄り添ってその思いを想像しようとせず、溢れる情報の中から安易な答えを求めがち。そんな人に、自分の人生をジャッジされるかと思うとゾッとしました。企業のモラルを守り、組織の暗部を追及する。融資や営業とは違う、坂井の銀行員としての矜持(きょうじ)はここにあって、だから正当なジャッジができるんです」
幸せの根源って何でしょうか、と玉山さんは言う。
「家族について考えさせられる作品でしたね。僕の子供はまだ小さいですが、自分で情報を分別して、相手のために行動できる人間になってほしい。きっと幸せはそういうところから生まれるのですから」
たまやまてつじ/1980年、京都府生まれ。99年、ドラマ『ナオミ』でデビュー。2009年、映画『ハゲタカ』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞。14年、NHK連続テレビ小説『マッサン』で主演。主演映画『今はちょっと、ついてないだけ』(22)他、映画・ドラマ出演多数。
INFORMATION
『連続ドラマW シャイロックの子供たち』
WOWOW 10月9日より、毎週日曜22時~放送・配信
https://www.wowow.co.jp/drama/original/shylock/