米国人にとってベースボールという競技は“特別”だと聞く。単なるスポーツを超え、国の文化や精神を表し、心の故郷のように語られる。実際、野球映画には名作が多く、家族や人生のあるべき姿が描かれてきた。そうした名作群に新たに加えられるべきドキュメンタリー作品が『バタード・バスタード・ベースボール』(ネットフリックスで配信中)だ。

 1973年、オレゴン州ポートランドに突如、メジャーリーグ機構に属さない完全なる独立球団「マーベリックス」が誕生した。創設者でオーナーはビング・ラッセルという男。『荒野の七人』などに出演していた脇役俳優だという。

「126回くらいは死んでる」

ADVERTISEMENT

 と父のことを語るのは実の息子カート・ラッセルだ。『遊星からの物体X』『バックドラフト』などで知られるあの人気俳優である。父のビングはかつてマイナーリーグでプロ野球選手としてプレーしたが、夢破れてハリウッドへ。地道に俳優業を続けるも13年間出演した西部劇ドラマが終了し、40代半ばにして気力を失っていた。そんな折、ポートランドからメジャー傘下のマイナー球団が撤退すると知り立ち上がった。

©佐々木健一

 所属選手も一から探さなければならない。トライアウトを実施すると全米から300人を超す男たちが駆けつけた。髪や髭が伸び放題の峠を越えた投手や左利きの捕手、一際背の低い日系人選手などメジャー球団では相手にされない“はぐれ者(マーベリック)”ばかりだ。だが、ビングは公平な目で彼らの実力を判断し、採用した。彼自身を含め、このチームに集まった誰もが挫折を経験し、夢破れし者だった。彼らの望みは何より「野球を楽しむこと」。そんな彼らは思わぬ快進撃を見せ、地元に大旋風を巻き起こすこととなる。ところが、チームは僅か4年で消滅してしまうのだ。偉大なる反骨心、人生の悲哀と切なさ、親子の絆がベースボールを舞台に描かれる掘り出し物の逸品だ。

『バタード・バスタード・ベースボール』
https://www.netflix.com/jp/title/70299904