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《観光バス横転》「豪腕で事業急拡大。数年前に渋谷の豪邸へ」やり手社長の“本当の評判”と逮捕運転手(26)が置かれていた“ブラックな環境”

genre : ニュース, 社会

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《渋滞の中、無理矢理割り込む》

《赤信号を無視していた》

《東北道で3台が130km/H以上でウインカーを立てずに車線変更、車間距離は全く取らず前方車両にぴったりくっついていた》

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 これらはバス運行会社「美杉観光バス」(埼玉県飯能市)のグーグルマップ上の口コミだ。同社の運転手がつい先日、バスの横転事故を起こし、同社の吉田典弘社長が会見を開く事態となった。

 まずは事故を振り返ろう。

富士山ツアーでバス横転で死亡1人、重傷6人

 10月13日午前11時50分ごろ、静岡県小山町の県道で観光バスが横転した。埼玉県西部を出発し富士山五合目まで行く日帰りツアーで、参加者34人と運転手と添乗員の計36人が乗っていた。制御不能となった大型バス横転の衝撃は凄まじかったのだろう、埼玉県入間市の枝川恵美子さん(74)が搬送先の病院で死亡が確認され、他にも6人の重傷者がでるという悲惨な事故となった。

横転したバス ©共同通信

 静岡県警担当記者が解説する。

「県警は運転手の野口祐太容疑者(26)を自動車運転処罰法違反(過失致傷)で現行犯逮捕しました。事故後に会見したツアーを企画した『クラブツーリズム』の酒井博社長によると、事故の前に野口容疑者は添乗員に『ブレーキが効かない』と話していたといいます。

 美杉観光によると、当日朝バスに異常はなく、野口容疑者にアルコール反応などもないことから『フェード現象』が事故の原因だった可能性が高いと言います。国交省や県警が家宅捜索するなどして、事故原因を詳しく調べています」

フェード現象防止は「バス運転手の基本のキ」

 交通事故鑑定人の熊谷宗徳氏が解説する。

「フェード現象とは、フットブレーキを多用することでブレーキパッドが加熱して摩擦力が減り、ブレーキの効きが悪くなることです。事故現場の手前に薄いタイヤ痕がありますが、横転したバスの状況などから総合的に考えると、運転手が話しているように、フェード現象が起こっていてブレーキが効かなかった可能性が高いです。

 乗客も多く、重量がある大型バスですから、ベタ踏みしても減速しきれずに勾配のある下りカーブで横転してしまったのでしょう。これまで同じ場所で同様の事故がなかったことからも、運転手の操作に問題があったと言わざるを得ません」

美杉観光バスでの家宅捜査 ©共同通信

 あるバス運転手の男性(40代)はこう語る。

「下りの坂道でフェード現象を避けるために、フットブレーキはなるべく使わずにエンジンブレーキと排気ブレーキで進むのはバス運転手の基本のキです。ただ経験が浅いと、道路が混雑しているときに前方との車両間隔が開いて迷惑になるのを恐れたり、急いでいる時に少しでも早く進もうとしたりしてしまうんですよ。そういうときにアクセルと交互にフットブレーキを踏んでしまう。新人がやりがちなミスです」

 尊い命を奪った事故の原因は逮捕された運転手による人為的ミスなのか。それとも美杉観光バスという会社に問題があったのだろうか――。

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