――悩みに囚われたというのは、いつ頃のことでしょう。
日渡 『ぼく地球』の後、『未来のうてな』から『宇宙なボクら!』の頃ですかね。
おかげさまで『ぼく地球』が大反響だったので、「あれを超える、あるいは並ぶくらいのヒット作を描かねば……」という呪縛を、自らかけていた感じです。周囲から寄せられる期待を、私が勝手に《圧》として感じるという幻想に陥っていたんですね。
だけど、そういう幻想を創るのも自分だし、そこにこだわってるのも実は自分だけ。『GLOBAL GARDEN』で目が醒めました。
――目が醒めた。
「ヒットメーカーであらねば」という呪縛
日渡 はい。これがきっかけ、とハッキリ言えるようなものはないですが、それでも不思議なモノで、そんな自分を俯瞰できる瞬間は、ちゃ~んと必ず訪れてくれて。
いっぺんに開き直ったのではなくて、「アレ……もしかして、自分で殻をこさえてね……?」って、ちょっとずつ世界が視え出したような感覚です。
――『GLOBAL GARDEN』の連載が終わったのは2005年。『ぼく地球』から10年以上経っていますね。
日渡 ええ。そのときに『ぼく地球』を振り返ったら、「あんな変な話を描かせてもらえてたんだな」とか、「謙虚になれよ自分(笑)」みたいな。「“あれを超えるモノを描けるはず”とか、何を思い込んでんだ~」って。
そうしたら突然、目の前に落書きできる砂場が広がってるのが目に入って。「あっ、まだ描かせてもらえる。ココで遊ばないでどうするんだろう」と、もったいなく感じて描き始める。それが今ですね。
――そこから第2部の『ボク月』、そして今の第3部『ぼく歌』につながるんですね。
日渡 「過去だけ見てたら今がもったいない」って、『ぼく地球』から身をもって教えてもらいました(笑)。
読者は空から私を眺めている
――この先、描きたいテーマなどは?
日渡 今は特にありません。描きたい瞬間が来たら描くだけです。
砂浜にどんな絵を描いても、波でさらわれて消えていきますでしょ。たぶん私はそんなマンガ描き。なのに、そんな変なマンガ描きを読者さまは星のように輝いて、空で眺めてくださっている。本当に心から感謝しております。
幸いです。かつての拙作『1000億のともだち』(白泉社文庫『星は、すばる。』に所収)の中に稚拙な詩を書きましたが、まさにそんな感じです。
──この詩の後半「想いは大気にとけ 光のごとく 暗闇をとび越え まなざしとなって 運ばれる」の部分は、『ぼく地球』で木蓮やロジオンが語る言葉に通じますね。