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【原画展開催】《画業40年》“SF少女マンガの先駆者”日渡早紀が変えたもの、変わらないもの「手書きのファンレターも、雑誌の広告欄もなくなりました」

日渡早紀先生インタビュー#3

2022/10/18

genre : エンタメ, 読書

――悩みに囚われたというのは、いつ頃のことでしょう。

日渡 『ぼく地球』の後、『未来のうてな』から『宇宙なボクら!』の頃ですかね。

 おかげさまで『ぼく地球』が大反響だったので、「あれを超える、あるいは並ぶくらいのヒット作を描かねば……」という呪縛を、自らかけていた感じです。周囲から寄せられる期待を、私が勝手に《圧》として感じるという幻想に陥っていたんですね。

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 だけど、そういう幻想を創るのも自分だし、そこにこだわってるのも実は自分だけ。『GLOBAL GARDEN』で目が醒めました。

『GLOBAL GARDEN』©日渡早紀/白泉社

――目が醒めた。

「ヒットメーカーであらねば」という呪縛

日渡 はい。これがきっかけ、とハッキリ言えるようなものはないですが、それでも不思議なモノで、そんな自分を俯瞰できる瞬間は、ちゃ~んと必ず訪れてくれて。

 いっぺんに開き直ったのではなくて、「アレ……もしかして、自分で殻をこさえてね……?」って、ちょっとずつ世界が視え出したような感覚です。

――『GLOBAL GARDEN』の連載が終わったのは2005年。『ぼく地球』から10年以上経っていますね。

日渡 ええ。そのときに『ぼく地球』を振り返ったら、「あんな変な話を描かせてもらえてたんだな」とか、「謙虚になれよ自分(笑)」みたいな。「“あれを超えるモノを描けるはず”とか、何を思い込んでんだ~」って。

 そうしたら突然、目の前に落書きできる砂場が広がってるのが目に入って。「あっ、まだ描かせてもらえる。ココで遊ばないでどうするんだろう」と、もったいなく感じて描き始める。それが今ですね。

――そこから第2部の『ボク月』、そして今の第3部『ぼく歌』につながるんですね。

日渡 「過去だけ見てたら今がもったいない」って、『ぼく地球』から身をもって教えてもらいました(笑)。

読者は空から私を眺めている

――この先、描きたいテーマなどは?

日渡 今は特にありません。描きたい瞬間が来たら描くだけです。

 砂浜にどんな絵を描いても、波でさらわれて消えていきますでしょ。たぶん私はそんなマンガ描き。なのに、そんな変なマンガ描きを読者さまは星のように輝いて、空で眺めてくださっている。本当に心から感謝しております。

 幸いです。かつての拙作『1000億のともだち』(白泉社文庫『星は、すばる。』に所収)の中に稚拙な詩を書きましたが、まさにそんな感じです。

白泉社文庫『星は、すばる。』より『1000億のともだち』 ©日渡早紀/白泉社
白泉社文庫『星は、すばる。』より『1000億のともだち』 ©日渡早紀/白泉社

──この詩の後半「想いは大気にとけ 光のごとく 暗闇をとび越え まなざしとなって 運ばれる」の部分は、『ぼく地球』で木蓮やロジオンが語る言葉に通じますね。