権力関係が不安定になり”逆パワハラ”が増えている
しかし一方で、 “上司から部下への行き過ぎた指導”を問題視するあまり、新しい問題が起きているという。
「パワハラ被害を訴えやすい空気は歓迎すべきことですが、上司と部下の上下関係が不安定になり、今回のような“逆パワハラ”が増えているんです。パワハラになることを恐れて委縮する上司に対し、部下が強気になっていいんだと勘違いしてしまう。私の事務所にくる法律相談も、ここ数年は“逆パワハラ”が多くなっていますね」
近年増加傾向にあるという“逆パワハラ”。その対処法は、通常のパワハラよりも複雑だという。厚労省はパワハラの認定要素として、「優越的な関係を背景とした行為」であることと定めている。上司から部下へのハラスメントは、それだけで優越的な関係を背景にしていると主張できるが、部下から上司となるとそう簡単にはいかない。
「部下から上司へのパワハラで優越的な関係が認められるのは、『部下が業務上必要な経験・知識を持っていて、業務上部下の協力が不可欠な場合』と厚労省が定めていますが、部下から上司に優越的な関係がなければ、それは単なる“嫌がらせ”です。
もう一つの問題点は、“逆パワハラ”の被害者が被害を訴えた場合、『お前は部下も管理できないのか』と管理能力不足を問われてしまうこと。今回の兵庫県警のAさんも“逆パワハラ”を相談するのには勇気がいったことと思います。上司が適切な対応をしたからよかったものの、最悪の場合、Aさんが管理責任を問われることもあり得ますから」(同前)
弁護士が指摘する組織の“風通しの悪さ”
井口弁護士は「パワハラの原因は当人同士の関係だけにあるのではない」とも指摘する。パワハラが発生しやすい組織には特徴があるのだという。
「ずばり“風通しの悪さ”です。上司と部下の意思疎通ができていないと、指導を受ける側は不満を抱きやすく、指導する側も厳しくなりがちです。警察のように上下関係が厳しく、規律を重んじる風土があるならなおさら。相手に対して厳しい指示が出しやすく、かつ受けた側も不満を口に出しにくい。不満がたまりにたまって、こらえ切れなくなってハラスメントで鬱憤を晴らそうとしてしまうのです」
部下が上司に物申せなかった時代から、パワハラを訴えやすい環境に変化していることは歓迎すべきだろう。しかし根源的な原因を解決しなければ、“逆パワハラ”がますます増える事態にもなりかねないのだ。