文春オンライン

2022/10/29

『君の名は。』の予告編は、その後の大ヒットを予感させるような素晴らしい出来でした。それが、2016年4月に公開された国民的アニメシリーズ「名探偵コナン」の映画版(『名探偵コナン 純黒の悪夢』)の上映前に集中的に流されたのです。

 これまでの新海作品のファン層はどちらかと言えば30代以上の男性にボリュームゾーンがあったと思いますが、これにより、低い年齢層へと浸透します。そして、一般向け試写会も積極的に行いました。まだ当時は新海誠という名前は知る人ぞ知る存在だったので、「知ってもらう」ことに注力したわけです(一方で『天気の子』では、マスコミ向けを含め、試写会をまったくやらないという正反対の戦略を採用しています)。

 

『君の名は。』の公開は同年の8月ですから、4カ月前から、10代からの低年齢層に口コミが広がっていく取り組みをしたわけです。映画の公開に先駆けて、新海誠自身が手掛けた『小説 君の名は。』(角川文庫)が出版されていましたが、映画の公開時にはすでに50万部が売れていたそうです。それほどまでに、浸透していたのです。

試写を見て、思わずぞわっとした

 私自身はマスコミ向けの試写会で本作を初めて観ました。そして、ものすごく衝撃を受けました。

 新海誠が東宝と組む最初の作品で、大きなヒットを狙うことが求められる座組で製作される作品で、果たしていかなる物語が展開されるのか? 予告編で前もって宣言されていた「高校生の男女が入れ替わる」というコメディーチックな展開が、これまでの新海作品とは一線を画するような「生きた」キャラクターたちによって演じられることでグイッと引き込まれました。

主人公の一人である立花瀧を演じた神木隆之介さん ©文藝春秋

 後半に、実は三葉は3年前にすでに死んでいたことが明らかになり、隕石が衝突した後の糸守町の景色が大写しになったことで「この映画は震災の話に向き合おうとしている」ということがわかり、ぞわっとする感覚を得ました。

 作品の後半の展開は、瀧が、三葉を含む「死者たち」を蘇らせようとして、過去と現在、この世とあの世を行き来するものであるとまとめられると思うのですが、最初に観た時、私は、その努力は最終的に実らないだろうと予測していました。