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「つらかったのは、皮膚が生え変わる過程です。自分の皮膚が樹皮みたいにボロボロ剝けていき、その下からドナー由来の新しい皮膚が生まれてくる。その新しい皮膚がまだ薄いから、痛くてしかたない。ペットボトルの蓋を開けようとしただけで指先が裂けて火傷のような状態になるんだよ。足の裏や睾丸の皮まで剝けて、物を触るのにも歩くのにも尋常ではない痛みが走るんです。それに、俺は地黒だから、気づけばもとの褐色の皮膚と新しい白い皮膚がまざって全身がまだら模様になっていました」

色白になってきたという Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

薬が効いてる間はボーっとしちゃう

 そんな状態でも、2カ月半に及んだ入院中、病室にパソコンを持ち込み執筆を続けていた。病を得てからも、計5本にのぼった連載はほぼ落とすことなく書ききったという。

「ちょうど執筆が集中していた時期で、今思えばそれが良かったんだろうね。入院中、やることがないからヒマで仕方ないんだよ。執筆がどこかで支えになっていたんだと思います。それに、入院中からこの経験を書こうと決意していました。せっかくこんなに酷い目にあっているのだから、これを小説にしない手はない。だから、逐一病状をメモしていた。結果的にそれは大正解でしたね」

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 花村さんはもともと抜群の記憶力の持ち主で通っている。闘病小説『ハイドロサルファイト・コンク』にも、ディテールが詰まっていないところなどない。

「ところがさ、鎮痛剤でモルヒネを打たれるだろ? 薬が効いてる間はどうしたってボーっとしちゃうんですよ。自分の記憶があてにならないもんだから、ちゃんとメモを取っておいてよかったとつくづく思ったね。あの時の俺は偉かった(笑)」

苛烈な体験を笑顔を交え語った Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

自宅療養中に肺炎を発症 

 灼けるような痛みとつきあった末に、ようやく医師から退院の許可がでる。しかし自宅療養を始めたのも束の間、わずか3カ月で病院に舞い戻ることになる。その日、花村さんは突然の高熱に襲われ、呼吸が苦しくなり、自宅の床にばったりと倒れてしまったのだ。

「苦しさのあまり身動きがとれなかった。息をするたびに苦しくて仕方ない。たまたま家に一人だったものだから、床を這いつくばってようやく電話機のところまでたどり着いて、妻に『動けない、すぐ帰ってきて』と電話した。病院にかつぎこまれ、一体原因はなんだとレントゲンを撮られたら、肺が真っ白になって写ってたよ」