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《がん闘病》「ステロイドの大量投与で執筆がはかどる、はかどる」芥川賞作家・花村萬月さんが死の淵でのぞいた、自分の変わっていく身体と精神

《がん闘病》「ステロイドの大量投与で執筆がはかどる、はかどる」芥川賞作家・花村萬月さんが死の淵でのぞいた、自分の変わっていく身体と精神

花村萬月さんインタビュー#1

2022/10/29
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 ウイルスや細菌感染による肺炎を疑い、抗生物質の投与を続けられたがいっこうに症状はおさまらない。検査の結果、GVHD由来の間質性肺炎だと判明したのだが、この検査というのがまたやっかいだった。

通常の12倍もの量のステロイド剤を服用

「医師ができればこの検査はやりたくないんだけど……みたいなことを言うんだよ。口から肺胞にまで内視鏡を入れて、肺胞の上皮細胞の一部を切除して検体を採取するんですが、いかんせん事故が多いらしい。検査に関する説明書きを見たら、この検査で亡くなったケースもあるそうです。治療ではなく検査で死ぬこともあるのかよ……って。俺は胃カメラすら飲んだことがなかったものだから、正直、怖かったですね。とはいえ、もうまな板の上の鯉のような状態で、医師に身をゆだねるしかないんだけどさ」

入院を終えても闘病は続いた Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

 危険な検査だったが、大過なく終えることができた。次いで肺の炎症を抑えるため、ステロイド剤の投与が始まったが、なんと通常の12倍もの量を服用することになったという。

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副作用で顔がまん丸に膨らんでパンパンに

「これが素晴らしくよく効くんです(笑)。なんせ定量の12倍だからね。薬でドーピングされて強制的に躁状態になるようなもんだ。やたらと機嫌が良くなって、やる気も出てくる。おかげで執筆がはかどる、はかどる」

病を得て、すこしおだやかになった印象だった Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

 一方で、ステロイド剤の大量投与は、副作用として様々な症状を引き起こした。脂肪の部分的な沈着によって、顔が満月状に膨らむいわゆるムーンフェイスもその一つだ。

「顔がまん丸に膨らんでパンパンになってくるのよ。顎と首の境目もなくなっちゃうような状態になりましたね。それなのに体重は30㎏以上も落ちて、体はガリガリになる。加えて、皮膚はGVHDの影響で、もともとの褐色の皮膚と白い新しい皮膚が混ざったまだら状なものだから、そりゃあ異様な見た目でしたよ」

次回に続く)

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2022年3月25日 発売

《がん闘病》「ステロイドの大量投与で執筆がはかどる、はかどる」芥川賞作家・花村萬月さんが死の淵でのぞいた、自分の変わっていく身体と精神

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