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《がん闘病》「ステロイドの大量投与で執筆がはかどる、はかどる」芥川賞作家・花村萬月さんが死の淵でのぞいた、自分の変わっていく身体と精神

《がん闘病》「ステロイドの大量投与で執筆がはかどる、はかどる」芥川賞作家・花村萬月さんが死の淵でのぞいた、自分の変わっていく身体と精神

花村萬月さんインタビュー#1

2022/10/29
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無事に骨髄移植を終え、4割の生存率に懸けることに

「骨髄異形成症候群は『くすぶり型白血病』と呼ばれ、放置すれば数年で白血病に変異するリスクが高いっていうんだよ。もしそうなれば、2年生存率が約20%、5年生存率が10%以下になると医師に告げられました。一方で、骨髄移植を受ければ5年生存率は40%になる。でもさ、それって裏を返すと治療を頑張っても6割は死ぬってことなんだよな。どのみち死ぬなら、治療の時間を執筆に充てたいと思ったんだけど、家族に懇願されちゃってね。まだ幼い娘たちに『死なないで』なんて言われたら、無下にできないでしょう(笑)」

「くすぶり型白血病」と呼ばれる難病に罹った Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

 幸運なことに、早い段階で骨髄バンクに登録されたドナーからの骨髄移植のめどが立つ。移植を無事に終え、4割の生存率に懸けることになった花村さんだったが、パーセンテージにはあらわれない、多くの困難が待ち受けていた。

 まず、花村さんを悩ませたのは、免疫力の低下。移植にあたって抗がん剤投与と全身への放射線照射を行ったことで、免疫力が新生児以下のレベルにまで落ちてしまった。合併症はさまざまあるが、花村さんの場合は口腔内の細菌が増殖して、無数の口内炎が出来たという。

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合併症に苦しめられた

「まるで特殊メイクをしているかのように唇が裂けて腫れあがっちゃうんだよな。口の中も舌先だけでなく喉の奥までぐしゃぐしゃで、もう痛いなんてもんじゃないの。何が触れても痛いから、水さえ飲む気が起きなくなりました」

襲われた症状は凄まじいものだった Ⓒ文藝春秋 撮影・石川啓次

 口内炎が収まったと思ったら、今度は次々とGVHD(移植片対宿主病)による症状が襲い掛かる。これは、移植細胞が自分の細胞を異物とみなして攻撃しようとすることで引き起こされる合併症。来る日も来る日も高熱にうなされた。

《すばらしい勢いで増えていくドナーの白血球に私の肉体は侵略攻撃されて三十八度超の熱が出っ放しであり、手は内側から火傷しているかの状態で、指先の皮がどんどん剝けていく。足裏なども同様である。その下には新たな皮膚があるのだが、とにかく薄くて脆弱で物に触れられない。》(P200 )

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