やがて安室さんはプロの歌手になる夢を抱き、学校へ行かずに練習に没頭するようになった。同級生の一部は「そんなことをしたって歌手になれるわけがない」とあざ笑った。先生も、歌手を目指すより、勉強して高校へ進学するように言った。彼女はそれらには耳をかさず、目標に向かってひた走った。
彼女がそうできたのは、沖縄アクターズスクールの社長さんやスタッフの支えがあったからだ。彼らは安室さんが絶対に成功すると思って全力で教え、励ましてくれた。お母さんも努力を認めて応援してくれた。
お母さんはお金がまったくといっていいほどなかったのに、離婚した夫に頼んでお金を2万円だけ出してもらい、欲しがっていたエレキピアノを買ってあげたこともあった。安室さんは誕生日プレゼントさえほとんどもらった記憶がないので大喜びして毎日ずっとピアノを弾いていた。こうした環境が彼女に自信を抱かせ、どんどん自己肯定感が育っていったのだろう。
中学2年生の時、彼女はついに SUPER MONKEY'Sのメンバーとなりプロとしての活動をスタートさせることになる。最初は鳴かず飛ばずで、スーパーマーケットのイベントでほとんどお客さんもいない中で歌ったり、子供番組に着ぐるみを着て出演するなどしていたが、歌手になることをあきらめずに努力を重ねられたのは、周りの人たちの支えと応援があったからに違いない。
心のレベルアップを果たしていた彼女はあきらめることなく、夢に向かって走りつづけることができた。そして17歳の時、ソロ活動に転じて大ヒットを飛ばしたことで、一躍ミュージックシーンのトップに上りつめることができたんだ。
彼女はこんなことを言っている。
「怖がらずに、思い切って一歩前に踏み出してみたら、人との出会いや、新しい自分の発見が待っていた。そこで得たものが、今の私をつくっているんです」
安室さんのエピソードからわかるのは、どれだけ貧しくても、周囲の人たちの支援を受けて心のレベルアップをつみ重ねていけば、目標がはっきりと見えるようになるし、それに向かって努力する力をつけることができるということだ。新たな出会いもある。それが、最終的には貧困の壁を乗り越えることにつながる。
中卒・高卒でも社長になれる
安室さんほどでないにしても、僕の知人の中でも中卒の人で成功している人はたくさんいる。
建築会社で10年間トビの仕事をしてたくさんの資格をとって20代で独立した人、スーパーでアルバイトしていたところ勤勉さを買われて正社員になり支店長にまで昇進した人、料理人として修業をつんで30歳で自分の店を出した人……。
みんな貧困家庭で中学までしか出ていないけど、家庭以外の環境や制度をうまく生かして貧困から脱出した人たちだ。
これを裏付ける興味深いデータがある。東京商工リサーチが日本にいる130万人以上の社長の学歴を調べたところ、図4のような数字が出た。
高卒 37.5パーセント
中卒 6.7パーセント
つまり、日本の社長さんの44.2パーセントが中卒か高卒なんだ。
もちろん、この中卒、高卒の人がみんな貧困家庭の出身というわけじゃないし、社長さんの年齢もバラバラだ。でも、中卒、高卒の人たちは大卒の人たちほど就職先に恵まれていないため、自ら起業して可能性を広げていく傾向にあるといえる。
君たちがよく知っている会社の社長さんにも、そんな人がいる。カレーチェーン「カレーハウスCoCo壱番屋」の創業者である宗次德二さんだ。