空腹を雑草でしのいでいた少年が起業するまで

 宗次さんは両親のことさえ知らずに生まれ育った。物心ついた時には児童養護施設に預けられていて、3歳からは血のつながりのない宗次家の養子になった。

 だが、宗次家はとても貧しかった。養父がギャンブルばかりして借金まみれになり、宗次さんを連れて夜逃げしたのだ。新しく移り住んだ土地でも同じような状態で、家の電気や水道が料金未払いで止められたり、引っ越しをくり返したりした。宗次さんは空腹に耐えかね、雑草を食べてしのぐこともあった。

 養父はいつまで経ってもこりず、たびたび宗次さんをギャンブル場へ連れていった。宗次さんは養父に喜んでもらいたい一心で地面に落ちていたタバコの吸い殻を集めていた。

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 養父はそんな宗次さんの気持ちを読み取ることなく、棒で殴りつけるなど暴力をふるっていた。

 高校へ進学してから、宗次さんはアルバイトで家計を支えた。だが、家には息子を大学へ進学させるだけの余裕はなかった。宗次さんは、高校卒業後に不動産会社に就職することになった。

 20代の半ばで、彼は不動産会社で知り合った奥さんと独立を決意する。これまで大変な人生を送ってきたので、なんとか自立して生きていきたいと思ったのかもしれない。2人でコツコツと喫茶店を経営し、やがてカレー屋を立ち上げる。そしてそれを全国チェーン店へと成長させたんだ。

 ここで僕が言いたいのは、貧しい家庭で生まれようとも、学歴がなかろうとも、人は心のレベルアップを通して自信と意志をもつことができれば、どんなことでも成し遂げられるようになるということだ。

 人生には困難がつきものだ。特に大変な境遇の中で生きている人は、それだけ多くの壁にぶつかることになるし、自暴自棄におちいりたくなることだってある。でも、そんな時にくじけず、前を向いて進めるかどうかは、その人がどれだけ自己肯定感を育んできたかということにかかっているんだ。

 ここまで講義を聞いてきた君は、クリスティアーノ・ロナウドや安室奈美恵さんらの例からも、自己肯定感の重要さがわかるだろう。彼らが心のレベルアップをつみ重ねたように、君も理解者に囲まれながら同じことをしていけば、かならず社会に羽ばたいていくことができるようになる。