消防士が駆けつけるも「あれ本物かな」 道は空かず
「店の中に入ろうとした人をクラブ側が追い返していた」という情報や、危険を察知した通行人が警察などに通報し、救助隊がすぐに出動したが、人波に押し返されるなどして、救助に時間がかかったともいわれる。消防士が駆けつけた時は、「みんな(消防隊を)ハロウィンの仮装だと思っていて、『あれ本物かな』なんて言いながら、道を空けなかった」という証言も出ていた。
犠牲になったのは20代が103名ともっとも多く、次いで30代(30名)、10代(11名)もいた。日本人2名も犠牲になっており、アメリカ、オーストラリア、メキシコなど14カ国26名が死亡したと発表された。オーストラリア人犠牲者は観光客だった。また、女性の犠牲者は98名、男性56名だったことが分かっている。これは比較的体格の小さい女性は体重の60%ほどの圧力がかかっても心肺停止を起こす可能性が高いためだという。
「大学に入ったばかりで、まだまだ遊びたい盛りですよ。小遣いまで渡して、楽しんでおいでと送り出したのに」と声を詰まらせた遺族、そして2日経っても子どもがどこにいるのか分からない家族の憔悴した姿などが次々に伝えられている。
地元60代女性は「むしろ今まで事故がなかったのが不思議」
梨泰院はハロウィンでなくとも若い世代に絶大な人気を誇る街だ。古くから交通の要地とされ、人の流れが盛んだった場所で、90年代後半にはソウルで初めて観光特区に指定されている。2013年に五月雨式に移転が始まる前までは米軍基地が近くにあったこともあり、行き交う人々は多国籍だった。
日本の街にたとえれば、六本木と原宿の裏通り、新大久保を合わせたような街だろうか。さまざまな国の飲食店やナイトクラブが無数に軒を連ね、モスクもあり、異国情緒が漂う街だ。
ハロウィンを祝う習慣は、2000年代初め、韓国で人気となった英語を学ぶキャンプでイベントとして行われるようになったのが始まりといわれる。しかし、こうした街での大がかりなイベントに広がったのはここ10年以内のように思う。
事故の次の日、梨泰院に向かった。梨泰院駅の改札近くでは泣いている女性がいて友人がしきりに「泣かないで」と声をかけている。話しかけると、「大好きな梨泰院であんな事故が起きて悲しくてやりきれなくて、哀悼するために来た」と話していた。ハロウィン当日は、梨泰院の別の場所でパーティに参加していたという。
現場近くは黄色いテープが貼られ立ち入り禁止になっており、許可を得たメディアのカメラが路地の入り口に陣取っていた。道路を隔てた向こう側には人だかりが。その中にいた、梨泰院に長く住むという60代の女性はこんなことも言っていた。
「今年はともかく人が多かったけど、今年に限らず、ハロウィンやクリスマスにはとにかく人がどっとやって来て、事故が起きないのが不思議なくらいだった。今までは運が良かっただけ。起こるべくして事故が起きた」