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「なぜ自分の体を売ってはいけないのか」という問いの根源的な答えを探す10、20代の旅を続けた鈴木は、“売春”や“娼婦”という言葉を使う。

「嫌いな言葉と好きな言葉って結構あるじゃないですか。娼婦とか売春、英語の“prostitute”も、好きな言葉です。単純に響きが好き。言葉の雰囲気が。エロス、性風俗、女性のモノ化、それからパパ活とかは、私としては実感を込められない、好きじゃない言葉です」

白はきれいなイメージですが、精子って汚くてべちゃっとしてて

 10月7日に発売された「文学界 」11月号で、鈴木は2作目となる小説『グレイスレス』を発表した。芥川賞ノミネート作『ギフテッド』に続く、自らの来し方を存分にモチーフとした作品である。

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 鎌倉の実家や建築家・黒川紀章、フランスのエロティシズム作家アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグの作品に着想したという。小部屋に囲まれたギャラリーを備えるその家に「祖母」と棲む主人公は、大学を中退後、ポルノ撮影現場のヘアメイク担当として糧を得ている。

©丸谷嘉長

 美しい家で、哲学と豊かな審美眼を己の基準にゆっくりと時間の流れる暮らしを送る女たちの記述と、ポルノ撮影の現場で見苦しくも生々しく匂ってくるような体液や野蛮な行為、粗雑な会話の記述が、交互に出現しながら進んでいく小説だ。たしかに、鈴木涼美はどちらの場所にも身を置いてきた。

 「私の経験したAVの撮影現場ってほんと精子臭くて。色んなところに精液がついてるから。『ギフテッド』が音フェチ小説なら、『グレイスレス』では色にばっかり目が行く主人公を書きました。白というと純白など『キレイな』『穢れていない』イメージですが、精子って白くて、でも汚くて、べちゃっとしてて。キレイな化粧品で描かれた黒い線を、汚い白い液体が汚していくんですよ。なんかいいじゃないですか」

AV撮影でバケツ1杯の本物の精液を飲んだ知り合いは……

 小説の中には、読み手が少々ゲンナリするほどの、小さなバケツ一杯の精液なんていうエピソードもある。

「当時バケツ1杯の本物の精液を飲んで、救急車で運ばれた知り合いがいました。小さくてもやっぱりバケツ1杯溜めるんだと、ちょっと時間が経ってるからたぶん菌が湧いて、食中毒になったんです。汚い話ですけど(笑)。

 普通はたぶんそこまで無理はさせないものですし、今現在のAV現場では考えられないのかもしれません。当時は荒々しい監督っていたんですよ、『リアリティだ!』みたいな。イったフリじゃ納得してくれないタイプの(笑)」