2020年10月1日、大学を卒業したばかりの新社会人だった川上穂野香さん(22)は大阪市内のホテルでひっそりと命を絶った。
投資詐欺に遭い、150万円を失ったことに悩んでいた。穂野香さんが若い命を自ら散らせたのは、投資話を持ちかけてきたYという男に150万円の返金を求め、拒絶されてしまった翌日のことだった。
穂野香さんの母・佐永子さん(55)は、娘を自殺に追い込んだ男を刑事告訴した。Yは今年6月、金融商品取引法違反容疑で略式起訴されたが、裁判で下った判決は罰金70万円。1人の若き女性を自殺にまで追い込んだ責任を考えれば、あまりにも軽すぎる罰だった。
慰謝料・投資費用の返金で1265万円の損害賠償請求
事件から2年が過ぎた2022年11月2日、母の佐永子さんは東京地裁で、穂野香さんを自殺に追い込まれ精神的苦痛を受けたなどとして、Yらを相手に慰謝料や投資費用の返金として計1265万円の損害賠償請求を起こした。会見で、代理人の杉山雅浩弁護士は、「Yは有罪になったが、非常に軽い刑罰を受けただけで、普通に社会生活を送っている。遺族は納得できないし、民事で彼らに責任を取ってもらいたい」と訴訟の意義を力説した。
悲劇はなぜ起こってしまったのか。
懐かしい大学の同級生が「投資に興味ある人!」とインスタに投稿
発端は2020年8月下旬、穂野香さんが自殺する1カ月前のことだった。新社会人として働き始めたばかりだった穂野香さんはある日、大学時代の同級生Oがインスタグラムに「投資に興味ある人!」と投稿していたのを目にする。懐かしさもあってか返信をしたところ、Oは「友達として聞いて欲しい」などと穂野香さんを説得し、Yも含めた3人のグループLINEを作った。
Yは「ジェンコ」という金融商品に投資しているという。「投資を始めて初月130万、2カ月目660万、3カ月目1200万稼げた」「正直何もしなくても投資としてお金は入ってきます」と、甘い文句で穂野香さんを誘った。
「所謂マルチですか」と訝しむ穂野香さんに、Yは「マルチとかネズミではないです」と断言。穂野香さんはなおも、「今すぐに決定したい訳じゃなくて」と渋るが、Yは専門用語を使って煙に巻き、やり取りを始めてわずか数日後の9月1日までに入金しないと、キャンペーンに乗り遅れると猛プッシュをかけた。