9月に亡くなったエリザベス女王を中心に英王室のドロドロ現代史を描くNetflixの超話題作ドラマ『ザ・クラウン』。序盤からエリザベス女王の夫・フィリップ殿下の奔放な女性関係、女王の妹であるマーガレット王女の不倫など、史実や資料に基づいてはいるものの攻めに攻めた演出で、11月9日に公開されるシーズン5ではついにダイアナ元妃の死が描かれます。

キャストが本人に似ていることでも話題の「ザ・クラウン」。ダイアナ元妃を演じたのはエマ・コリン (シーズン4予告編より)

 物語の舞台が現代に近づき、視聴者の記憶にある時代に近づくにつれて毀誉褒貶がヒートアップしているのは皆様もご存知のとおり。ネットニュースの見出しでもよく目にしますね。

 本作をドラマ作品として評価した場合、特に最初のシーズンを観るためにネトフリ加入も全然アリだなという超絶クオリティです。しかもそれは、製作費のゴージャスぶりに起因する話ではない。「離婚調停弁護士」のようなチョイ役に至るまで俳優の存在感&演技が重厚で、心理的に練り上げられた脚本が凄い。観て満足するか怒るかは人それぞれですけど、どうせ怒るならこのレベルのコンテンツをネタにしたい、とは言えるでしょう。

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 今回、文春の編集氏より「王室をあんな風に扱うのはヨーロッパ文化市場的にどうなのか、というか、ドイツのような共和制の国でもロイヤルドラマってウケるんですか?」という質問をいただき、確かにこれは比較文化的に興味深いテーマなので一筆書いてみる次第です。

「禁断のラブロマンス」+こじれた反応

 まず、ドイツで話題になっているかといえば、当然ながらかなり話題です。

 で、どんな盛り上がり方をしているかといえば、それは万国共通の女性週刊誌的な「禁断のラブロマンスが!」系の紹介記事を見ればわかります。しかしドイツの文化的特色がディープに表れるものとして、インテリ言論人の“こじれた反応”があるでしょう。たとえば高級紙「ツァイト」の記事を要約するとこんな感じです。

「ザ・クラウン」は2シーズンごとに主要登場人物のキャストが替わる。シーズン5、6でエリザベス女王を演じるのは66歳のイメルダ・ストーントン (シーズン5予告編より)

「確かにメロドラマの割にはよく出来ている。俳優の演技は見事だし、史実のアレンジにセンスを感じる。脚本家ピーター・モーガンの英王室に対する戦略的な反骨心も見事だ。が! 帝政とナチ時代を経て共和政体の市民として成熟したドイツ人に! 王室などという化石的文化を美化・正当化する物語が刺さるものか!(刺さるヤツは知的とは言えない、的な含みあり)」

 うちは王政を卒業した国だというプライドを見せつつ、記事の筆者の名前がアンナ・フォン・ミュンヒハウゼンという貴族バリバリな出自だという文化的屈折感。その屈折も含めて妙に盛り上がり、結果的に視聴者も増える! という現象が起きていて、実にネタ的に美味しすぎます。