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エリザベス女王の夫の女性関係、妹の不倫… 英王室の“致命的な欠点”で好感度が上がる「ザ・クラウン」の不思議なウケ方

エリザベス女王の夫の女性関係、妹の不倫… 英王室の“致命的な欠点”で好感度が上がる「ザ・クラウン」の不思議なウケ方

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 ドイツのインテリたちは、こういう記事を踏まえつつ「フム、仕方ない。メロドラマらしいが、あのフォン・ミュンヒハウゼンが見どころアリとか言ってるから、まあ観てやるか!」という免罪符じみた内面的儀式を経て『ザ・クラウン』を観るのですよ。

 もちろんこれは多少おおげさな表現ではありますが、基本的にドイツの平均的インテリの行動ベクトルはそんなもので、BBCとかが放つ英国コメディのドイツ人揶揄は、このへん口惜しいほどによくツボを突いてるなぁと痛感します。

今年6月には、エリザベス女王の即位70周年を祝う祝典が行われた ©共同通信

 また、ドイツのネット上での『ザ・クラウン』の感想をいろいろ見てみると、中には「政治的には正しくないかもしれないけれど上質な歴史解釈」と、チャレンジングな演出を褒める声もあったりして、これはこれでドイツ人が言いそうな鬱屈的論理で興味深い。

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昔は王様がいた国の、ロイヤルに対する憧れ

 さてそもそも、『ザ・クラウン』を嗜むにあたって大前提となる「いわゆるロイヤル文化への(下世話なものを含む)興味」について実際ドイツでどうかといえば、すっごい高いですね。

 前述のフォン・ミュンヒハウゼン先生は王政を化石的な文化だと言っていて、たしかに現在のドイツで王政の復活を望む人はそう多くありませんが、ロイヤルというものは人間の心の「何か」を刺激するのでしょう。その主たる理由を本音ベースで列挙すると、

●大昔はドイツ圏にもロイヤルたちが居た(というか領邦国家の乱立で、小型ロイヤルのインフレ状態だったともいえる)のに、今は居ない! でもまだあちこちに王侯貴族文化の名残はある! という状況から来る懐古と憧憬。

●ロイヤル系ネタに触れていると、何となく自分もハイソ文化の一部になった気がする的なアレ(これは万国共通っぽい)

●ロイヤル系ネタって歴史文化伝統系の蘊蓄と相性がいいので、SNSやご近所のそれ系雑談の場で知識マウントを取りやすい!(これも一応万国共通だろうけど、知的権威主義がヤバめなドイツでは特に顕著)

●ロイヤル系って基本的に非ナチor反ナチなので、いくら推してもどこからもお咎めがないのがイイ!(これはドイツならではの特殊事情)

 …という感じで、社会階層を問わずロイヤル的なものへの執着は案外強いと感じます。実際、実家に帰ってテレビをつけると、北欧などのロイヤルイベントのニュースが流れたりする頻度が地味に高いですし。

ロンドン郊外のウインザー城にある王室図書室で、皇太子さま(当時)がエリザベス女王から日本ゆかりの品々について説明を受けられたことも

 また、とりわけ『ザ・クラウン』の主役たる英王室はドイツとの関係が深く、

●1714年にイギリス国王に就任したジョージ1世は、元はと言えばドイツのハノーファー選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒ。それ以来ドイツ系が継続しているので、親近感が湧かないはずがない。

●でも第一次世界大戦を経て、エリザベス女王の伯父である国王エドワード8世がナチスと妙に近づいたことで、決定的に関係がこじれたのよ!

 ……という屈折した状況があります。しかしむしろそれが、マニアック路線に転びがちなドイツ人の興味関心を煽っている感も強かったり。

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