女性関係は派手なのに、応援せずにいられない不思議
『ザ・クラウン』でも、トリックスターというか準主役というか、いや序盤はむしろ実質的にこの人が主役でしょと多くの人が感じているに違いないフィリップ殿下が、まさにドイツとの因縁が山盛り(出自がドイツ系で、姉3人はことごとくナチ要人と結婚、さらに自身は英国海軍将校としてドイツ軍と戦った)なわけで、まさに上記「英独の葛藤」を単身で背負いこんだ存在ですね。
しかも作中、無限の表現力を振りかざしてねじれたプライドやコンプレックスを爆発させながら大暴れしてしまう。これをドイツ人視聴者が見のがすハズがありません。
シーズン5から冒頭に「この物語はフィクションです」というテロップが入ることになったようですが、フィクションや演出が加わっていることを踏まえても、フィリップ殿下のキャラ造形は見応えあります。きわめて知的で不安定で、その内面の線の細さを過度な皮肉とブラックユーモアでひたすら埋めていこうとするけど、どこか憎めない……というあの感触(と表情、雰囲気)。あれはドイツ人から見ると、すごくベルリン人っぽい(笑)。
女王の添え物であることにプライドを傷つけられ、その反動もあって派手に女性関係で遊んでいるように見えながら、なんとなく応援せずにもいられない絶妙なバランス。このような心理的演出の妙が本作の大きな特徴でしょう。
実際、フィリップ殿下はけっこうクセの強い人柄だったらしいですが、日本語版Wikipediaにある「徹子の部屋」に出演した時に「討論の真ん中で番組を切るというのは、ひどい番組ですね」と話したエピソードなどをみるに、ドラマでのキャラづけも一理あるなと感じてしまいます。
フィリップ殿下のドラマ設定でもうひとつポイント高いのが、エリザベス女王が「清濁併せ呑む」ことを身につけて国王としてのスキルを伸長させていく傍ら、彼がダブスタ的な正論をもとに英国の「表と裏」を告発する機能で輝く点です。これはなかなかシビれますね。ゲーテ文脈的にいえばファウスト兼メフィストフェレス的な印象でしょうか。