勝又 口頭だけで感想戦を終えることは珍しくはないので。それでも「7六歩」とか言ってくれればわかりますが、「あそこを叩いて」といった表現を使われるとなかなかわからない。
藤井 そうなんです。例えば「あれを全部バラして」だと、どこをバラしているのかわからなくって。
わからないことは「新聞解説」の棋士に聞くことが多い
――なかなか鍛えられますね。藤井さんは2年間、盤側で棋士の対局や感想戦を見ていて、どういう感想をもっていますか?
藤井 すごく勉強になります。
――それは具体的に将棋の勉強になる?
藤井 そうですね。びっくりするくらい将棋を勉強する感覚になります。
――記録係とはちがいますか?
藤井 そうですね。ちがうと思います。あと読売新聞には「新聞解説」という、観戦記者をさらにサポートしてくださる棋士の先生方がおられるんです。
勝又 そういう制度を置いているのが読売新聞とか朝日新聞。朝日は順位戦をYouTubeで中継していますけど、あのとき解説している棋士は、その解説ポジションの人なんですね。
藤井 だから、そういう先生方に「すみません。教えてください」ってつつきまくっています。
――本人には聞かない?
藤井 本人に聞くこともありますが、解説の先生に聞くことが多いですね。
プロ棋士の観戦記者にとって共通して大事こと
――勝又先生も、盤側にいるからこそわかることってありますか?
勝又 いちばん印象に残っているのは藤井聡太さんの対局ですね。私は、2つだけ彼の観戦記を書いたことがあるんですが、いずれも2020年の緊急事態宣言が明けた直後でした。
――緊急事態宣言で、休止していた対局が一斉に始まりましたよね。
勝又 私は自分の対局もあるので、観戦記を担当する機会は少ないほうですが、そのとき対局がたくさん始まって記者が足りなかったんですね。なんと中1日で、藤井聡太さんの観戦記を2局取ったんです。
藤井 えー!
勝又 まず2020年の6月2日に棋聖戦決勝トーナメントの藤井聡太七段VS佐藤天彦九段。そして6月4日には、棋聖戦挑戦者決定戦の永瀬拓矢二冠VS藤井聡太七段。両方ともお願いしますと言われて。私は藤井聡太さんを三段時代から知っていますが、間近で対局を見たのはそのときが初めてでした。
――そうやって見ると印象は変わりますか?
勝又 その場で見ると終盤の物凄さがわかりますよ。プロ棋士の観戦記者にとって共通して大事なのは、顔色を変えてはいけないことです。
――良い手だ! みたいなのがわかっちゃマズイですよね(笑)。
勝又 そう。ある程度わかっちゃうから平然としてなくちゃいけない。で、その将棋は、角換わり腰掛け銀で、藤井さんが攻勢だったんですが、佐藤天彦さんも粘り強いからまだまだ続くかと思っていたら、ハッとした手であっという間に受けなしになったんですね。こっちもビックリするのを隠すのが大変でした。取れる香車を取らないとか、桂馬を変なところに打つとか印象深かったですね。