――いい観戦記とか、理想の観戦記とかありますか?
勝又 私は、文系の才能がまるでなく、まさか自分がこれだけ書いてこられるとは思っていなかったですからね。理想だけでいえば、沢木耕太郎さんみたいなのを書きたいなと思ったり、朝日新聞に移籍した北野新太さんの文章もすごいなと思います。
――藤井さんは、いかがですか?
藤井 たしかにこの観戦記が好きっていうのはありますが、私がその人になれるってことではないので、うんうん唸りながら私なりのものを書くしかないなと。いつもつぎはぎだらけのものが、みなさんにアートって言われている感じがしています。
「対局室で描いてたことあったの?」
――アートといえば、藤井さんは、絵を描くのがお好きなんですね。和風のテイストで描かれた竜や虎のイラストをツイッターなどで拝見しました。
藤井 あ、そうですね。唯一の息抜きです。実は対局場のスケッチを描いたこともあるんです。
勝又 対局室で描いてたことあったの?
藤井 何回も(笑)。
勝又 それは新手だね(笑)。対局室で絵を描く観戦記者、初めてだね。
――法廷画家みたいですね。
藤井 最初は対局室で対局風景などを描いていましたが、先生方が「棋譜を見せてください」って覗き込むとき「やばい! 見える」って思って、対局場で描くのはやめました。
勝又 そうそう。棋士が席を立つときノートが見えないよう閉じるというのは意識していますよ。
――どうしてですか。
勝又 見られたら嫌じゃないですか。
藤井 私も見られていいのと、見られたらマズイのを分けるようにしました。
勝又 そういうのも観戦記者のマナーですよね。
★★★
取材終了後、将棋ペンクラブ大賞を受賞した藤井女流初段に、どんなスピーチをされるのかと聞いたところ、「トークショーだけじゃないんですか?」と驚かれた。勝又七段は「私も受賞したときはしましたよ。ありがとうございましたペコリで終わるわけにはいかないからね」と笑っておられた。
「えー。どうしようー」と慌てた素振りであったが、きっと聞く人の心に響く素敵なスピーチをされるのではないかなと、彼女の観戦記をいくつか読んで思った。
そのスピーチは11月13日、「第34回将棋ペンクラブ大賞贈呈式&受賞者トークショー」にて行われる。
写真=佐藤亘/文藝春秋
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