現役棋士は170名強。棋士によって得意の戦法や展開は異なり、それぞれの指し回しに個性がある。例えば、攻め将棋だと受けに回る展開になると力を発揮できない。同じ攻め将棋でも飛車角銀桂を使う重厚なタイプか、それとも飛車角桂の飛び道具を使う軽い攻めか、どちらを好むかは人によって違う。

 人間同士の勝負は一局一局、自分の持ち味をぶつけられるように水面下で駆け引きを繰り広げている。そうやって、一局の将棋はふたりの手で生み出されるのだ。

座談会に出席した3人の棋士。左から順に黒田尭之五段(25)、青嶋未来六段(27)、石井健太郎六段(30) ©伊藤健介

 今回は、文春将棋ムック「読む将棋2022」に掲載されたオールラウンダー座談会の番外編として、トップ棋士の棋風を3人の俊英、石井健太郎六段、青嶋未来五段、黒田尭之五段に分析してもらい、画像のポジショニングマップを作りあげた。

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3名には、それぞれのポジションを自己申告してもらった ©文藝春秋

 詳しく取り上げるのは以下の12人(タイトル保持者と1月取材時のA級棋士。★印は関西所属)の棋士だ。

・藤井聡太竜王(★)
・渡辺明名人
・斎藤慎太郎八段(★)
・永瀬拓矢王座
・豊島将之九段(★)
・広瀬章人八段
・糸谷哲郎八段(★)
・菅井竜也八段(★)
・佐藤康光九段
・佐藤天彦九段
・羽生善治九段
・山崎隆之八段(★)

藤井聡太竜王

藤井聡太竜王(王位・叡王・王将・棋聖)は2002年生まれ、2016年プロデビュー。杉本昌隆八段門下。タイトル戦登場は10回、獲得は9期。棋戦優勝は5回。
2021年度(2021年4月~2022年3月)の成績は52勝12敗(0.813)。タイトルを2つから5つに増やし、史上最年少の五冠を達成した。順位戦はB級1組からA級に昇級し、今期は名人挑戦権を争う。
2022年度は叡王、棋聖の防衛に成功した。現在、王位戦では豊島九段を挑戦者に迎えている ©文藝春秋

――まずは藤井聡太竜王から見ていきましょう。言わずと知れた現将棋界の第一人者ですね。幼少期から詰将棋を得意にする終盤型ながら、年々、序中盤の精度が上がり、最新定跡を引っ張っています。

石井 藤井竜王はデビューから居飛車100%ですよね。攻めと受けのバランスは難しい。ちょっと攻め将棋ですけど、そんなに偏っていません。豊島九段に少し似ている気がします。

黒田 マップの「居飛車」の文字のあたりじゃないでしょうか。攻防のバランスがトップ棋士のなかでもいちばんいいですし。

青嶋 わずかに攻めに寄っているような気がしますね。

石井 じゃあ、青嶋案でいきましょうか。

渡辺明名人

渡辺明名人(棋王)は1984年生まれ、2000年プロデビュー。所司和晴七段門下。タイトル戦登場は42回、獲得は31期。永世竜王と永世棋王の有資格者。棋戦優勝は11回。
2021年度の成績は23勝18敗(0.561)。王将は失冠したものの、名人と棋王を防衛した。
2022年度は名人戦の挑戦者に斎藤慎太郎八段を迎え、4勝1敗で退けている。
10代から羽生世代と激闘を繰り広げた。近年は最年長のタイトルホルダーで、年下の挑戦者を迎え撃つことがほとんどになっている。合理的に定跡を整理し、かつ勝負強さを持ち合わせている ©文藝春秋

――次は渡辺明名人です。石井六段にとっては、兄弟子にあたります。

石井 基本的に居飛車党で、攻め重視の棋風です。いまは振り飛車をほとんど指されていませんが、ゼロではないですよね(渡辺明名人は後手でゴキゲン中飛車を裏芸にして、タイトル戦でも指していた。飛車を最後に振ったのは2017年)。藤井聡太竜王は振り飛車がゼロなので、比較するとわずかに振り飛車寄りです。

青嶋 戦法に関しては石井さんと同じです。問題は棋風で、どれぐらい攻めに寄っているか……。攻め将棋なのは間違いないけど、意外と受けも苦にしていないイメージです。石井さんの置いた点より、心持ち受け寄りかなと思います。

黒田 私はお2人の真ん中ぐらいでお願いします。

一同 (笑)。