藤井奈々女流初段と勝又清和七段による、女流棋士・棋士の観戦記者対談。後編では、勝又七段による「棋士が観戦記を担当すると感想戦はどうなるのか」という話から始めたい。
初めて知ったが、棋士による感想戦というのは、観戦記者が誰かによってその話し方が変わるようだ。
藤井ー永瀬の感想戦は…
――まず初歩的なことを教えていただきたいのですが、感想戦というのは、基本的に観戦記者のためにやるものという位置づけでよいのでしょうか?
勝又 そうです。将棋には、勝因と敗因があるじゃないですか。一般的には、どこがおかしかったのかと敗因を探るのが基本。そしてそれを観戦記者を通して、読者に届けるわけです。
――では、対局者が楽しいからやっているということでもない。
勝又 いや。楽しいからやっている場合も多々ありますよ(笑)。例えば、藤井聡太-永瀬拓矢の感想戦はだいたいそうですよね。いつも周りが止めて終わることが多いです。
藤井 二人の世界に(笑)。
勝又 そう。二人の世界に入って「そろそろ記者会見があるので……」と止められるまでが、二人の感想戦ですね。それで感想戦で話す内容は、観戦記者が誰かによって変わります。
――そうなんですね。勝又先生のように、棋士が観戦記者だとちょっとちがうと。
勝又 ええ。観戦記者が同じプロ棋士ですからね。だから観戦記者が私ってなると「なんも遠慮することないな」って、パーッと二人の世界に入ることが多いですよ。ところどころ「あの局面では、形勢をどう思っていましたか?」と聞いたりしますが、私など、いなかったような扱いにされることが多いですね。
――わはは(笑)。
何を言っているのかわからず、棋士室にダッシュにして聞くことも
勝又 私が観戦記を担当したので印象に残っているのが、1999年棋聖リーグの佐藤康光名人と羽生善治四冠との対局。このときは、竜王が藤井猛、棋聖が谷川浩司、名人が佐藤康光で、残りが羽生善治という時代でした。
藤井 ふえええ。
勝又 それでこの対局が、先手が羽生さんで藤井システムなんですよ。羽生さんが勝ったんですが、感想戦が途中から「これはこうで」と言うだけで、駒を動かさなくなったんです。「これはこうやると」「あ、手厚いか」とかそんな会話だけになって……。まったく理解できなくって。その当時の二人はまだ20代でもうキレッキレ。さすがにそのときは「すみません、並べてください」って言いました。
藤井 ふふふ(笑)。
――藤井さんは、感想戦を聞いていても、何を言っているのかわからないということは、あまりないですか?
藤井 いや、けっこうあります(笑)。
勝又 あるよね。
藤井 だから終わった後、棋士室にダッシュして誰か捕まえて「あれはどういう意味ですか?」と聞いたりします。