――その2日後の挑戦者決定戦のときはどうでしたか?
勝又 このときは、永瀬さんが上り調子。タイトル戦も連勝続きで、これからしばらくは渡辺(明)、豊島(将之)、永瀬の3人で覇権争いかと思っていたんです。予想通り途中まで永瀬さんが良かったんですが、気づいたら藤井さんが勝勢。
でも途中で、おかしな手を指したんですよ。それで「どういう意味かな」って悩んでいたんですが、指した本人は平然としている。藤井さんだから深い読みがあるんだろうなって思って、終わったあとに聞いてみたら「ははは、うっかりです(笑)」って。あ、こんなポーカーフェイスできるんだって。そういうことは、盤側にいないとわからないですよね。
「苦しいのになんで書いてるんだろう(笑)」
――さて、取材が終わって執筆になるわけですが、勝又先生はすぐ原稿に取り掛かるんですか?
勝又 苦手なんですよぉ。
――対局の次の日とかに書き始めることはない?
勝又 書けないんですよ。締切迫らないと書けなくって。
――執筆は、まずその回数に応じて、棋譜を選ぶんですよね。この作業は楽しいですか?
藤井 全然楽しくないです。
勝又 苦しい。
――ふふふ(笑)。
勝又 観戦記、苦しい。
藤井 全然楽しくない。
勝又 苦しいよね。苦しいのになんで書いてるんだろう(笑)。
藤井 本当ですよね。
――徹夜になったりもするんですか?
藤井 もう徹夜だらけなんですよ。将来、絶対体を壊すなって思っています。
山場が最後に集中している対局は書きにくい
――それは読売の人から「明日の朝までに」って頼まれるんですか?
藤井 いや、そういうわけでもないんですけど、何を書こうと考えているうちに、目が乾いてくる感覚があって、気がついたら朝の4時とか5時とかで、もういやだーって。
勝又 すごいねー。
――勝又先生は、徹夜はさすがに……?
勝又 さすがにないですが。ただ、書けるときは書けるけど、書けないときはまったく書けない。
――対局によってやはり書きやすいときと、そうでないときはありますか?
勝又 それはもちろんありますね。
――それは将棋の内容的に?
勝又 私の場合はそうですね。例えば、大ポカで終わってしまった将棋は、ちょっと書きにくい。どうしましょうかってなりますよね。あとは山場が最後に集中しているとか。野球でいえば9回の表に5点入って、9回の裏に6点入ったりするような展開だと、ちょっと書きにくかったりします。
一方、自分が読んでほしいなって思うことがあると書ける。今期の竜王戦1局目に広瀬さん(章人八段)が飛車先保留型の角換わりを選択しましたが、久しぶりのことだったし、読んでほしいと思うからすらすら書けるんですね(文春オンラインに掲載された《藤井聡太竜王に先勝 広瀬章人八段の「入念な対策」が功を奏した対局だった》参照)。